想いの行方(仮)

□こたえ
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だからわざと耳元で言ってあげたんだ。

左之さんと話しているときと同じようにて、少しでもその耳に、心に残るように。




―――やっぱり千鶴ちゃんが好きみたい。だから今度返事を聞かせてよ




別に色好い返事を期待しているわけじゃない。
千鶴ちゃんの態度を見ていれば、そんなことあり得ないってわかっている。

ただ、少しはそういう対象に見てもらわなきゃ始まらないから。

少し鈍いあの子はまだ『冗談ですよね?』くらいにしか思ってないかもしれないから。

それで終わりにされたらたまらない。

だからもう一度、ちゃんと伝えて返事の催促もした。
今は千鶴ちゃんからの答えがどうであっても受け入れるつもりだったんだ。


だったんだけどね…。




(顔を見た瞬間逃げられたら話ができないじゃないか!)


逃げられても追いかければいい…

そう思ったのは嘘じゃないし、もちろん追いかけた。
最初は驚きすぎて動けなかったけど。

でも千鶴ちゃんが逃げ込んだその場所が問題だった。
最近あの子が声をかけることなく飛び込んでいく部屋。

そこは僕のいわば天敵の、土方さんの自室だ。

無断で飛び込んできた千鶴ちゃんに最初はお怒りだった土方さんも、何度言っても聞かない彼女に根負けしたのか最近はそんなやりとりもあまり聞こえない。
軽く注意を促すだけだ。

そこでもっと怒って部屋から追い出してくれればこっちも楽に捕獲ができるのに。

千鶴ちゃんを部屋から連れだすこともできるけど、あの人にそういうところを見られたくない。

そんな意地を張っている場合じゃないってのもわかっているけど、そんなことをしたらあの子はきっと土方さんに助けを求めるだろう。
そんなところ、見たいはずがない。

目の前で、僕じゃない誰かに手を伸ばすところなんて。

それに僕だっていつまでも時間があるわけじゃないから、千鶴ちゃんが出てくるまで待っていることもできない。
そもそもなかなか部屋から出てこないし。


でも今日こそは。


「…絶対に逃がさないんだからね」


そろそろこの状況にも我慢の限界だから。

今日、答えを聞くまでは。

そして…

そのあとも。


他人に奪われるのを黙って見ていられるほど軽い存在ではなくなっていたから。

急すぎる想いの変化に戸惑うこともあるけど、そんなことすぐ忘れてしまえるほど、大きくなっていたから。

だから初めて覚えたこの想いに、ちゃんと責任をとってもらわなくては。






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