想いの行方(仮)

□こたえ
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物陰に隠れてしばらく待っていると、ようやく部屋から出てきた千鶴ちゃんはなんだか落ち込んでいるように見えた。


いつも土方さんの部屋でなにをしているのか


なにを話しているのか


もしかしたら僕の悪口でも言ったり聞いたりしているんじゃ…


気になることはたくさんあったはずなのに。

千鶴ちゃんを見たらそんなこと、頭からきれいに消えていた。

もしかしたらいつもこんな顔をしていた?

ため息をつきながら、俯きながら。


「…全部私のせい、なんだよね」


そんなふうに自分を責めていたんだろうか。

そんな顔をするなら怒っていたほうがましだ。

笑ってくれなくても、罵られてもいい。

千鶴ちゃんが悪いことなんて一つもない。

どう考えても悪いのは僕だ。

だから本当は、そんな君に僕がかけてあげられる言葉なんて何一つ無いのかもしれない。

でもね、そんなふうに困らせても、もう逃がしてなんてあげられないんだ。


「頑張らなきゃ」


小さな手で握り拳をつくって、急に前向きに
なった千鶴ちゃんに。


「なにを頑張るの?」


声をかけた瞬間、絵に描いたように跳びあがってまた逃げだそうとしたその腕を引いた。

少し力が強すぎたのか、思っていたより軽い千鶴ちゃんの小さな身体に驚いた。
そして気づけば僕の腕の中にその小さな身体はあって。
千鶴ちゃんもなにが起きたのかわからないみたいにぱちぱちと瞬きを繰り返していた。


「ようやく捕まえた」

「…え……?」


久しぶりに感じた柔らかさとか、どこからか香ってくる甘い香り。
抱きしめているだけなんてもの足りなくて、それ以上を求めて動きそうになる腕を我慢するだけで精一杯とか…思春期の子供じゃあるまいし。

そういった欲望を作り笑いに全部隠して見下ろしていると、ようやく状況を飲み込めた千鶴ちゃんは急に抵抗を始めた。


「やっ!離して!」

「だって離したら逃げるんでしょう?」

「に、逃げませんから!」

「いつも人の顔を見れば一目散に逃げていた
のは、どこの誰?」


離してと言われても離す気なんてさらさらない。
どうせまた逃げられるのが目に見えてる。

そう思って聞いてみれば、心当たりがありすぎるんだろう。
僕には敵わない細い腕でしていた抵抗はぴたりと止んで、思い切り視線を逸らした。
どうやら自覚はしていたらしい。


「ほら、自分でもわかっているんだよね。前科のある子を信じてあげられるほど、優しくないんだ、僕」

「…だ、だってそれは…、沖田さんが追いかけてくるから…」

「僕が追いかけるより早く逃げてるのはそっちじゃなかった?」

「だって…だって……」


……あ、泣きそう。

急速に浮かびはじめた涙に、なんだか僕が悪いことをして泣かせているみたいな罪悪感…。

少し前まではこんなこと感じたりしなかった。
むしろそんな反応が面白くてよく苛めていた。

…そりゃ逃げたくもなるか。






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