短文。

□僕が好きになった君
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『千鶴・ちゃん』

『ひゃっ!』

『捕まえた』

『お、沖田さん!は…離して……』

『い・や』

偶然見かけた千鶴ちゃんを
背後から思いっ切り羽交い締めにする。

小さな身体は僕の腕が余るほど
本当に細くて小さくて。
本気を出さなくてもどうにでもできてしまいそうなくらい力も弱い。

腕の中でささやかに感じる抵抗を封じて、ちょうどいい高さにある頭頂部に顎をのせた。


『あ、丁度いいところにこんなものが』

『お…重い、です』

『千鶴ちゃんがひ弱なんじゃない?』

『ちがっ……つ…潰れる…』


面白い反応を返してくれることが楽しくて、
ついいつもみたいにからかってしまう。



……あんなところを見ておいて


あんなことをしておいて


いつもと変わらない。


僕も


千鶴ちゃんも。


ある意味すごいかも。



…この子はまだ子供だと思っていたのに。

いつから、誰が

こんな無防備でなんの汚れも知らないような子供だった彼女をあんな風に変えたんだろう。


『総司、いい加減にしろ』

『邪魔しないでもらえます、左之さん。僕達、今遊んでるんですけど』


後ろから聞こえた声に千鶴ちゃんと二人で振り返ると、今一番会いたくない人物。


『遊んでいるのはお前だけだろうが。いいからその手を離せ』

『…はいはい、わかりましたよ』


拘束していた腕を緩めると
脱兎のごとく左之さんの後ろに隠れた千鶴ちゃん。

いつものやりとりに
いつもの光景。

なのにこんなに胸が痛むのは


……なんでかな。


『…ったく、子供じゃねえんだ。いい加減千鶴をからかって遊ぶのは止めろ』

『まだ子供の千鶴ちゃんと遊んでるんですから、なんの問題もないじゃないですか』

『そういう意味じゃねえだろうが…』

『じゃあ。何が問題だって言うんです?』

『大人のおまえが、千鶴をからかって遊ぶことに問題があるって言ってんだよ』


言い訳がちょっと子供っぽいかな、と思う。

けど、このやり場のない苛立ちを左之さんにぶつけてみても、ため息一つで流されてしまう。

そんなところがいちいち気に入らない。

どうにか気を引きたいと思っている自分がひどく大人げなく感じる。







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