短文。

□僕が好きになった君
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なんとなく知っていた。


纏う雰囲気も

お互いを見る瞳も

他の誰ととも違う。


僕でさえ気づいたんだ。
他の皆も気づいているんだろう。

でも誰も何も言わないのは、確証がないから。

もしかしたら土方さんあたりは、それとなく牽制していたのかもしれない。

この新選組の屯所で男女の関係なんてあっていいはずがない。


『ていうか、もうはっきり言ったらどうです?』

『…なにをだ?』

『あれ、僕が言っちゃっていいんですか?左之さんって意外と度胸無いなあ』


…まどろっこしいんだよね。


こんな相手の出方をうかがうようなやりかた。

どうせならはっきり言ってくれたらいいのに。

そうすればこの不毛な想いなんて捨ててしまえるのに。

まだ付け入る余地があるんじゃないか、なんて。

僕らしくない考えや、あり得ない期待なんてしなくてすむのに。


『二人のこと、知らないとでも思っているんですか?』


僕の言葉に動揺を見せたのは左之さんじゃなくて、その後ろに隠れていた千鶴ちゃんだけだった。

左之さんは憎たらしいほどいつもと変わらない。


そうやっていつも大人で


余裕で


僕とは違うんだ、って。


……思い知らされるんだ。


二人に見えないように握りしめた拳。
食い込んだ爪が皮膚を裂いた感触に、でも不思議と痛いと思わなかった。


『……お前は、俺がそう言えば満足するのか?』

『……なにを…?』

『お前こそ、それを俺が言ってもいいのか?』


痛いほど真剣な眼差しに、反らしたら負けだとそれを睨み返した。

組長同士のにらみ合い。
たとえほかの組長でも関わろうとする人間はいないくらい殺伐とした雰囲気。


………だというのに


『けっ、喧嘩は駄目です!原田さん、沖田さんも!』


無言で睨みあう僕たちの間に割り込んできた小さな影。
小さな身体を精一杯主張するよういっぱいに腕を広げて、僕らの顔を交互に見て必死に訴えた。

それにしても…


(…喧嘩って……)


『…ねえ、千鶴ちゃん。』

『はい?』

『君にはこの状況が喧嘩に見えるんだ…』

『え…?』


違うんですか?と首を傾げる仕草にすっかり毒気を抜かれた。


『あのな、千鶴……』


どう考えてもこの場にそぐわない言い方に二人で脱力して、代わりにこみ上げてくるもの。


『ふっ……あはははは!やっぱり君って最高!おもしろすぎ!』


よりによって喧嘩とか。
そんな簡単なものじゃないと思っているのは僕たちだけだったのか。

微妙に空気が読めない千鶴ちゃんのおかげでこの場の緊張が一気に解れた。

その調子だとこの、千鶴ちゃん曰く「喧嘩」の原因の一端が、自分にもあることに気づいてなんだろう。


…でも、それでこそ君なんだよね。


『……あ〜、お腹痛い。こんなに笑わされたの、久しぶりかも…』

『あの…私、何か変なこと言いました?』

『ん〜…さぁ?僕じゃなくて、左之さんにでも聞いてみたら?』


おずおずと僕を見上げてくる千鶴ちゃんは本当に何もわかっていないようで。
答えを求めて次に見上げた左之さんも教えるつもりがないのか、千鶴ちゃんの視線を受けても苦笑を浮かべるだけ。

そんな僕たちの態度にいくつもの疑問符を浮かべて納得できない表情をする。






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