短文。

□Trick and Treat!
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どうして、と言われても人には向き、不向きがある。
千鶴にとって人に悪戯をするなんてあり得ないことで、考えたこともない。

しかもその相手が沖田となれば、後からどんな仕返しが返ってくるかわからないだけに、余計にあり得ない。

だから必死に辞退を申し出るも、沖田の勧誘は止まず。


『大丈夫。やってみたら案外癖になるかもしれないよ?』

『そんな癖なんていりません!』

『食わず嫌いはよくないよ?』

『食べなくていいなら、わざわざ食べなくて結構です!』


千鶴は最悪の事態を避けるべく必死に応戦した。


『千鶴ちゃんって意外と頑固だね』

『…そうでもないと思います』

『生来のM体質なの?』

『…どうしてそうなるんですか』


しかし、お菓子をもらう話だったはずなのに、いつの間にか頑固だMなのかと話は変わっていた。


(…どうしてこんなことに…)


もとはといえば、千鶴が掛け声の意味を勘違いしていたことが原因だったが、まさかあんなことから今の事態になることを誰が予想できただろうか。


『あ〜、もう、わかったよ』


何を言っても頑なな千鶴にはなしのつぶてで、さすがに沖田もお手上げ…のように見えた。

ようやく諦めてくれたのかと喜んだのも束の間、千鶴は沖田の言葉に耳を疑った。


『仕方ないから、僕が千鶴ちゃんにしてあげる』

『……はい?』

『だから、僕が、千鶴ちゃんに、悪戯を、してあげる、って言ったの』


子供に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を区切りながら理解した?と笑う沖田は、いつの間にかいじめっ子の顔になっていた。



…いつも千鶴をからかって遊ぶときの、その顔に。



『なっ、ど、どうしてっ、沖田先輩が私に悪戯をするんですかっ!』

『だって、せっかくの権利を使わないなんてもったいないじゃない』

『別にもったいなくないので、そんな権利はぜひ放棄してください!』

『千鶴ちゃん、何事にも諦めが肝心な時があってね…』


(諦めってなんですか!諦めってっ!!)


全く噛み合わない会話に少しずつ後ずさる千鶴と、同じく少しずつ追い詰める沖田。

まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。

しかしそんな不毛な攻防も長くは続かず、千鶴の背中が壁にぶつかることでようやく終わりが見えた。


『わっ、わかりました!やります!やりますからっ!』


千鶴が叫ぶように言うと、沖田は満足げに頷いた。





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