短文。
□たったひとつだけ…【前編】
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チョコは嬉しい。
でも今日、それなりの数が手に入って嬉しいのかと聞かれると…。
はっきり言って、この日のチョコに限っては、数を貰っても迷惑以外のなにものでもない。
そこには女の子の気持ちが〜、とか、送る側の自己満足的な理屈がもれなく付いてくる。
そんな一方的なものなんて、貰っても嬉しくともなんともない。
そう考える僕とは違って、送られるもの全部を受け取ってくる一君は『らしい』というか、なんというか。
真面目だからきっとお返しとやらも、ちゃんとするんだろう。
そんな面倒くさいの断っちゃえばいいのに、と僕が口出しすることじゃないから言わないけど。
『ねぇ、それ全部食べるの?』
『……できる限りは』
『だよねぇ。全部はさすがに無理だもんね』
食品である以上はもちろんチョコにだって賞味期限がある。
それに好みも。
最近は個性がどうの、ブームがどうので変なものも多い。
そんなものを貰っても食べる側としては迷惑なだけ。
食べるならシンプルなものが一番いいって、どうしてそれがわからないんだろう。
『総司って手作りとか嫌いなタイプだろ』
『うん、嫌い。気持ち悪いし』
平助の質問に即答すると、だと思った、と返された。
だって知らない人が作ったものなんて、何が入ってるか分からないじゃない。
怖くて食べる気になんてなれない。
手作りチョコにも原材料とか書いておいてくれればいいのに。
『一君は?特にこだわりは無さそうに見えるけど』
『そうだな。余程のことがなければ、手作りでも構わんが…』
一君は一旦言葉を区切ると、料理がなんたるかを切々と語り始めた。
内容は見た目から始まって、味、舌触り、香りと、『余程』に引っ掛からないものを作る方が難しいようなこだわりが満載で。
『…平助はどっちでもいい人でしょ』
『…ああ。そりゃ、不味いものは嫌だけど、あそこまでのこだわりは無い』
僕と平助は延々と話続ける一君を無視して二人で話すことにした。こうなった一君を止められる人間はいない。
怪しい薬の代表格の石田散薬なら、止められるだろうけど。
でもそんなものは持っていないし、なんだか鬱陶しかったから、放っておくことにした。
僕は、そういえば、と手にしていた箱から茶色の塊を一粒取り出した。
『ねえ、知ってる?一個600円するらしいよ、コレ』
『コレって、それ一箱?』
『そんなわけないでしょう。一粒600円』
『へぇ〜…って。はぁ!?それが?そんなのが!?』
『そう、こんなのが』
。