想いの行方(仮)

□幸せの在処
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ちらちらとこちらを伺う視線に気づかない振りは、どうにかできる。
もしここで振り向こうとしようものなら…結果は推して知るべし。

自分のことも分からないけど、千鶴ちゃんのことももっと分からない。

目が合えば顔を逸らすくらいなら、最初から見なきゃいいのに。

そういうことをされるから余計に気になって、そして落ち込んで。
その後の苛立ちが増えるんだ。

何かにぶつけてやりたいこの感情は、とりあえず今は置いておいて足を動かす作業だけに集中…したいんだけど。


「…さっきから、なに?僕に何か言いたいことでもあるの?」

「あっ、いえ…すみません。なんでもありません」

「…そう」


平素を装ってみても、気になるものは気になる。

だから思い切って聞いてみたけど、得るものは何もない。
やっぱりまた俯かれた。
続く会話もない。

二人分の足音が聞こえるだけ。

元々おしゃべりな子じゃなかったけど、寡黙というほどでもなかった。

今では皆と普通に話せるし、笑うようになった。
僕とも顔を合わせて話してくれるようになったと思っていたのに。

なのに、今のこの沈黙。

今は僕たち以外に誰もいないし、心当たりは何もないけど…やっぱり僕のせい?


……


ため息、吐いていい?


ため息を吐くと幸せが逃げる、って聞いたことがあるけど、じゃあ僕の幸せはどこにあるんだろう。

正直、逃げるだけのものがあるとは思えないんだけど。

隣を歩くことができるだけで嬉しい、と感じることが僕の幸せだとしたら、幸せって随分ささやかなんだね。


(…知らなかったなあ)


でも、人を好きだと自覚するきっかけ自体がほんの小さなことなんだから、それに付随する幸せも、小さなことなのかもしれない。

その小さな欠片を集めて、初めて実感するのかな。



―――これが人を好きになることなんだ



…って。

だったらやっぱり、この想いは本物なんだろう。



…違う。本物なんだ。



少し今までははっきり言えた、なのに少しずつなくなっていったこの想いへの自信が、また確信に変わる。

いまさら再認識するなんて、他の人からしたら馬鹿げているように見えるかもしれないけど、そんなの知らない。
大切なのは、僕の、そして千鶴ちゃんの気持ち。

それだけだ。

理解していても、でも分からないことだらけで、自分の気持ちすらも見えなくなって。
疑うまではいかなくても、信じられなくなっていたんだろう。

そしてここに来ての、千鶴ちゃんの態度が拍車をかけた、と。

全部を彼女のせいにする気はさらさらないけど、僕には理解不能すぎたから。

それに、らしくないくらい考えすぎたせいかもしれない。
最初から迷う必要なんてなかったのに、自分から迷子になっていたみたいだ。

とりあえず今は、このささやかな時間が少しでも続くよう、頑張ろう。





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