想いの行方(仮)

□酒は飲んでも飲まれるな
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「………いやーーー!!!」


ようやく出た自分の叫び声に驚いて目を開けると、見慣れた天井がうっすらと見える。

そしてここは布団の上だった。


「ゆ…夢?」


手には掛け布団が握られていて、肩でするほどの呼吸を繰り返していた。

上半身だけで起きあがって窓を見ると、まだ夜も明けきっていない東雲の空の色。


「なんであんな夢…」


触れられた手も吐息も、鮮明に思い出せるほど夢にしては妙に現実的で。

嫌なはずなのに…心地よいと思ってしまった。


(…きっと疲れているんだ)


あの『稽古』の日から、何を言われるのかとひやひやしながら毎日を過ごしているから。

同意した訳ではないけれど、反故にしたり無かったことにしたら、それはそれで後が怖そうで。

でも、だからといって自分からその話題について触れたりしたら、何か言われるのを待っているようで…。

そんなことをぐるぐる考えていたからかもしれない。
精神的に疲れがたまったんだろう。

なんだか自分で自分を追い込んでいるみたいだ。

いつもなら朝食の準備を手伝うために起き出す時間だったけど、今日だけはと二度寝をしようと倒れ込むように横になった。


「どんな夢見てたの?」

「どんなって…」


不意に聞こえた声に反射的に答えて顔を向けた。

そして目に入ってきたのはにっこりと笑う沖田さん。


「おはよ」

「はぁ、おはようございます………って!なんで沖田さんがここにいるんですか!?」

「なんでって。昨日のこと、覚えてないの?」


今の状況を理解した瞬間、布団から飛び出した私とは反対に、沖田さんは落ち着き払ったように起きあがり、手をふるふると振った。


「あ〜、右腕感覚ないや」


(なんで、なんで、なんで!?)


混乱した頭は同じ言葉がぐるぐると回っていて、何か言いたいはずなのに、逃げ出したいはずなのに、どこも何も動かすこともできない。


「千鶴ちゃん?聞いてる?」


目の前でひらひらと揺れる手のひら。
そして沖田さんが夢で見たのと同じくらい至近距離にいることに気がついて反射的に後ずさった。


「…なに、その反応」

「だ、だっ、だって、いきなり近くにいるから!」

「さっきから何度も聞いてるのに、千鶴ちゃんが無視するからでしょう」

「無視って…え?」

「だから、昨日のこと覚えてるかって話」

「昨日…?」


まだ上手く回らない頭が、沖田さんの言葉を鸚鵡返しにさせた。

そんな私に気づいたのか。沖田さんはため息を一つ吐いて、みんなと一緒に飲みに行ったんだよ、と教えてくれた。


(昨日…みんな…飲み…)


「……あ」

「思い出した?」

「…………はい、多分…」


夕べの出来事が次々に思い出されて小さくなる私に、少しだけ責めるような視線が向けられる。

そういえば、夕べは―――。






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