想いの行方(仮)
□飲まれたのは酒か、それとも…
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「…という話をしたことは、覚えています」
「…それだけ?」
呆れた声と視線が私に向けられる。
慌てて思い返してみても、なんだか頭の奥が痛くて何も思い出せない。
沖田さんの反応からすると、きっと私が色々聞いて、彼はそれらに答えてくれたに違いない。
自分から言い出したことなのに、と頑張ってみるけど、やっぱり痛みが邪魔して頭が働かない。
「えっと…ちょっと頭が痛くて。もう少ししたら思い出せるのかもしれませんけど、今は…」
「そう…」
思い出せる保証はないけど、小さくてもその可能性に賭けたい。
何も思い出せないなんて、申し訳なさすぎる。
「あの、もし差し支えなければ、どんな話をしたのか教えてください」
もしかしたら、小さなきっかけで思い出せるかもしれない。
沖田さんもその意見には同意だったみたいで、嫌味や意地悪を言うことなく口を開いた。
昨晩の僕は、相当浮かれていたんだと思う。
いつもは千鶴ちゃんの、意味の分からない行動を不振に思っていたのに、何も疑いもしなかったんだから。
でも一つだけ、言い訳が許されるなら、今回ばかりは千鶴ちゃんが悪いって言っていいと思うんだ。
だって、『返事をしたからそこで終わり』。
だから『次からは今までと同じでいましょうね』なんて、できるはずないじゃない、普通。
…いや。女の人を好きになるなんて初めてだから、何が普通で何が普通じゃないのか、なんてわからいけど。
もしかしたら、諦めきれない僕が普通じゃないのかもしれないけど、それこそ知らない。
千鶴ちゃんが忘れたいって言ってきても、何度だって伝えるよ。
諦めることができないんだから。
困っていることには気づいていた。
でも千鶴ちゃんが隣に座ってお酌をしてくれる機会なんて、この先あるか分からなかったから、少し強引でも引き留めてた。
結果として、彼女の真意を聞くことができたんだから、悪いことばかりじゃなかったんだろう。
…というか、そう思わないとやってられない。
半ば尋問のように感じる彼女からの質問と、嘘をつけないという重圧。
嘘なんてつかなければいいだけなんだけど、それらが普通に話すことすら難しく感じさせた。
聞かれることは他愛のないことばかりのはずなのに、無駄に気を張っていたせいで、お酒を味わうどころか、それなりの量を飲んでいるはずなのに、酔うに酔えない。
『好きなもの』から始まった質問は、好きな季節や嫌いな季節、好きなことや場所、っといった、そんなことを聞いて何になるのかと、逆に質問したくなることばかりだった。
初めから聞くことを決めていなかったせいもあってか、あまり踏み込んだ話題にならなかったのは僕にとって救いだ。
ちづるちゃんが僕とまだ向き合ってくれるなら、自分の評価を下げるようなことを自分から言いたくない。
…どれだけ僕らしくないことをしなきゃいけないんだろう。
作った自分じゃなくて、本当の僕を見てもらいたいと思う反面、少しでもいいところを見せたい。
そんな相反する考えが浮かぶ。
人を好きになる、って言葉にするのは簡単なのに、実際はものすごく大変なんだ。
。