想いの行方(仮)

□鬼さん、どちら?
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私にとっても沖田さんにとっても、昨日のことはとても重い意味があると理解しているだけに、逃げることができなくなっている。

それなのに、いつもと同じように振る舞える沖田さんが羨ましいを通り越して、少し恨めしい。


「なにが、って。別に沖田さんには、関係ないですから」


お酒に強い沖田さんには、私の気持ちなんて分からないだろうし。

そう思って、考えなしに口にしてしまった言葉を後悔するのは、私。

もう見ていることもできなくて、俯いた私は安堵する。

言い過ぎた、とか、悪いことしたな、とか。

傷ついた……違う。


―――私が傷つけた


そう思って心を乱されることがなくなって、ほっとするなんて、最低だ。 

沖田さんのことを知りたいと思ったことは本当で、でも今すぐどうにかできるほど器用でもなくて。
蓋を開けてみたら、結局今までと変わっていない関係を、沖田さんはどう思っているんだろう。

でも昨日の今日だし、と言い訳をして逃げてしまう私には想像もできなくて、顔を上げることもできない。
逃げるくらい罪悪感を感じているなら、早く謝ればいいのに、と思う。

それと同時に、彼の想いが偽りなんかじゃなく本物なんだと分かって、ほっとしている私がいる。

このままでは駄目だ、と謝ろうとした矢先だった。


「…関係なくないよ」

「え?」

「関係なくなんて、ない」


強く言い切る声音はいつになく真剣で。
思わず顔を上げた先には、それ以上に真剣な表情をした沖田さんがいた。

少し前の私なら、沖田さんもこんな顔ができるんだ、と驚くくらい、痛いくらいに真剣な眼差し。

どうしてだろう。

逃げることも、視線を逸らすこともできない。

軽口をたたくでもなく、からかうでもなく。

じっと見つめるその真摯な姿勢に思考が止まったきり、動けない。

沖田さんと見つめ合うことになってしまって少し、彼が小さく呟いた。


「…まずい」


そして急に身を翻したかと思ったら、手近な部屋に入っていった。

ようやくはずされた視線にほっとしながらも、奇妙な一言が気にならないわけがない。


「どうかなさったんですか?」

「僕はここにいないって言って」

「え…?沖田さ…んっ!」

「ここにいないんだから、名前を呼んじゃ駄目」


障子の隙間から顔だけを出しながら、小声で変な訴えをする彼の行動の意味が分からなかった。

だから、ついその名前を呼んだ私の口は、途中で塞がれた。

顔の半分も隠れてしまいそうなくらい、大きな手。
そして真剣と言うより必死に近い言い方に、考える間もなく頷いていた。


「頼んだよ」


意外にも思える言葉を残して閉じられた障子に、何事?と首を傾げてすぐだった。


「総司〜。どこ〜?」


この新選組には、どう聞いても不釣り合いな高い声。
その主があちこちに顔を巡らせながら、姿を現した。


「あ、そこの兄ちゃん。総司見なかった?」


……兄ちゃん

…私、だよね?


「えっと…総司、って沖田さんだよね。沖田さんは…」





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