想いの行方(仮)
□鬼さん、どちら?
3ページ/7ページ
私が立っているすぐ横の障子を開ければ、目当ての人物がいる。
私には関係ないんだから、言ってもよかったんだ。
『この部屋にいるよ』
…と。
なのに、どうしてだろう。
「ううん、ここにはいないよ」
実際に口から出たのは真逆の言葉。気づいたら、そう言っていた。
「え〜。総司の奴、どこに行ったんだよ」
「沖田さんに何か用事でもあるの?」
居場所は教えてあげられないけどせめて伝言なら、と思い聞いてみる。
結構探し回っているみたいだし、これくらいはいいよね?
「うん。遊ぼうって言ったら、今日は駄目だって。やりたいことがあるからって」
「やりたいことがあるなら、仕方ないんじゃないかな。沖田さんだって、色々忙しいんだよ」
あんまり子供に聞かせるべきじゃない仕事とか、これから巡察に行くとか。
私にはそれくらいしか想像できないけど、皆さんの近くにいるから、幹部という肩書きを持つ人たちがとても忙しいことを知っている。
だから沖田さんもそうだと思ったのに。
「忙しいわけないじゃん!」
「どうして言い切れるの?」
「だって総司、眠いから寝るって言ってたんだから!」
……沖田さん。
どうしてもっと真面目に答えることができなかったんですか…。
仕事で忙しいとか、稽古があるから、とかでもよかったのに。
(よりによって、眠いから寝るって…)
沖田さんの、沖田さんらしい言い訳に、なぜか私が項垂れた。
でも子供はそんな私には気づかず、話を続けた。
「兄ちゃんも幹部ってやつなの?」
「え、私?ううん、違うよ」
「じゃあ、隊士?」
「私は隊士でもないんだ。私は土方さんの小姓…雑用を手伝っているの」
そう。
それが私の、ここでの立ち位置。
「土方って、総司が『土方さんは鬼だ』って言ってた。怖い?強い?」
「…えっと、確かに少し怖いかもしれないけど、理不尽に怒ったりしない、優しくて強い人だよ」
優しいのに怖いと言う私の言葉が納得いかないのか、子供はしきりに首を傾げている。
少し前の私だったら、もしかしたら同じような反応をしたかもしれない。
怖いという部分には同意できても、優しいには素直に頷けなかっただろう。
でも土方さんは誰よりも厳しい分、自分にはもっと厳しい。
でもその裏には、優しい部分もちゃんとある。
甘やかすだけが優しさじゃないことを知っている人だと、私は思う。
きっと人一倍苦労するだろうけど、でもそれを悟らせないのも土方さん流の優しさなんだ。
「ふ〜ん。じゃあ総司は?」
「沖田さん?沖田さんは……」
「総司は、優しい?強い?」
「え…っと……」
……ここはなんて答えるのが正解なんだろう。
。