想いの行方(仮)

□鬼さん、どちら?
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私が立っているすぐ横の障子を開ければ、目当ての人物がいる。

私には関係ないんだから、言ってもよかったんだ。


『この部屋にいるよ』


…と。

なのに、どうしてだろう。


「ううん、ここにはいないよ」


実際に口から出たのは真逆の言葉。気づいたら、そう言っていた。


「え〜。総司の奴、どこに行ったんだよ」

「沖田さんに何か用事でもあるの?」


居場所は教えてあげられないけどせめて伝言なら、と思い聞いてみる。
結構探し回っているみたいだし、これくらいはいいよね?


「うん。遊ぼうって言ったら、今日は駄目だって。やりたいことがあるからって」

「やりたいことがあるなら、仕方ないんじゃないかな。沖田さんだって、色々忙しいんだよ」


あんまり子供に聞かせるべきじゃない仕事とか、これから巡察に行くとか。

私にはそれくらいしか想像できないけど、皆さんの近くにいるから、幹部という肩書きを持つ人たちがとても忙しいことを知っている。

だから沖田さんもそうだと思ったのに。


「忙しいわけないじゃん!」

「どうして言い切れるの?」

「だって総司、眠いから寝るって言ってたんだから!」


……沖田さん。

どうしてもっと真面目に答えることができなかったんですか…。

仕事で忙しいとか、稽古があるから、とかでもよかったのに。


(よりによって、眠いから寝るって…)


沖田さんの、沖田さんらしい言い訳に、なぜか私が項垂れた。

でも子供はそんな私には気づかず、話を続けた。


「兄ちゃんも幹部ってやつなの?」

「え、私?ううん、違うよ」

「じゃあ、隊士?」

「私は隊士でもないんだ。私は土方さんの小姓…雑用を手伝っているの」


そう。
それが私の、ここでの立ち位置。


「土方って、総司が『土方さんは鬼だ』って言ってた。怖い?強い?」

「…えっと、確かに少し怖いかもしれないけど、理不尽に怒ったりしない、優しくて強い人だよ」


優しいのに怖いと言う私の言葉が納得いかないのか、子供はしきりに首を傾げている。

少し前の私だったら、もしかしたら同じような反応をしたかもしれない。
怖いという部分には同意できても、優しいには素直に頷けなかっただろう。

でも土方さんは誰よりも厳しい分、自分にはもっと厳しい。
でもその裏には、優しい部分もちゃんとある。
甘やかすだけが優しさじゃないことを知っている人だと、私は思う。

きっと人一倍苦労するだろうけど、でもそれを悟らせないのも土方さん流の優しさなんだ。


「ふ〜ん。じゃあ総司は?」

「沖田さん?沖田さんは……」

「総司は、優しい?強い?」

「え…っと……」


……ここはなんて答えるのが正解なんだろう。








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