想いの行方(仮)

□甘い言葉にご注意を!
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「…千鶴ちゃんさ。今、結構失礼なこと考えていたでしょう」

「はっ!?えっ?」

「ここ、誰かさんみたいになってる」


匙を持ったままの沖田さんに、人差し指でぐりぐりと押されたのは眉と眉の間。

すぐさまその指先から逃れて自分でその皺を伸ばしていると、匙をくわえながら不満げな顔で睨まれた。


「…ねぶり箸は不作法ですよ」

「箸じゃないし」


そう言いながら、ふて腐れる様子は本当に子供みたい。

でも、仕草がどんなに子供っぽくても、その言動がどう見えても、沖田さんは大人の男の人なんだ。

年上で、身体だって私よりずっと大きくて、あんなに重い刀を扱うその手も大きくて、軽々と振るえる力もある。


…私の抵抗なんてかなわないくらい……


そこまで考えた瞬間、あの日の出来事が頭に浮かんで、一気に顔に熱が集まった。


「千鶴ちゃん、どうかした?」

「なっ、なんでもありません!」

「でも急に顔が赤く…」

「き、気のせいです、気のせい!」

「いや、気のせいってそんな…」

「じゃあ、見間違いです!」

「その言い訳はかなり苦し…」

「あっ、こっ、これ、すごく美味しいですよね!」

「すっごくわざとらしすぎ…」

「と、とにかく!なんでもありませんから!!」


そう言い切って手を動かし始めた私は、訝しげに寄せられる視線から、なんとか逃げきれた…と思う。





『あの日のことを思い出してました』




素直にそう話していたら、沖田さんはどんな反応をしたんだろう…。


あの後は、ただただ怖いだけだった。
けど、時間がたった今は少し違う。

根幹の気持ちは、未だに変わらない。

でも男の人なのに柔らかいんだな、とか。

刀を握り続けて硬くなった手は、意外と優しかったな、とか。

考えるとおかしくなりそうだけど、ようやく最近、少しは落ち着いて思い出せるようになった。


力はかなわなかったけど、暴力で従わせられたわけじゃない。

どういうつもりであんなことをしたのか今でもわからないけど、ちゃんと解放してくれたし。

そして何となくわかったこと。


(…沖田さんは、ああいったことが初めてではないんだろうな)


他の幹部の皆さんに比べて回数は圧倒的に少ないけれど、夜に出かける理由がお酒を呑むだけじゃないってことくらい、さすがに知っている。


でも、だったらどうして私だったの?

いつもみたいにからかって遊んでいた?

なら、私のこの反応は沖田さんの思う壷?

近くにいた女が私だったから?

でもだったら、どうして『好き』なんて言ったの?

慰めのつもり?

それで困っている私を見たかったから?

沖田さんは好きというだけで、ああいったことが簡単に、平気でできるの…?





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