想いの行方(仮)

□できることと、できないこと
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ようやく洗濯を終えた千鶴ちゃんが、今度はそれらを一枚一枚干しはじめる。

背が小さいから一回いっかい背伸びをしないといけないため、一苦労のようだ。

それでも一人で仕事をやり遂げた彼女は、干されている着物を見上げて楽しそうに笑っていた。

つい馬鹿な考えが浮かんで、あまりの馬鹿さ加減に、本当に末期な自分の頭を殴ってやりたかった。


「……あ〜、もう。本当、勘弁して…」


今の僕はきっと、情けない顔をしているだろう。
それを隠すように項垂れた。

優しくしても監視役をかって出てみても、いっこうに縮まらないこの距離。
どうやって埋めればいいんだろう。


「沖田さん?」


いつの間にか真剣に考え込んでいたのか。
情けないことに、すぐそこに千鶴ちゃんがいることに全然気づかなかった。


「あ……お疲れさま。どうかした?」


たすき掛けを解いた千鶴ちゃんを見上げながら、なんでもない風を装う。

話しかけてくれるのは、最近はそう珍しいことでもなくなったけど、それでも少し驚いてしまう僕。
以前は何がなくても話したりしていたのに。

今は何か用事がなければ、近づくことすら難しい。

こんな関係になったのは全て僕のせいで、こんなことを思う資格はない。

けど、やっぱり寂しいなと思ってしまう。


「いえ。ずっと俯いていらしたので、具合でも悪いのかな、と…」

「心配してくれたんだ?」

「……」


千鶴ちゃんは、ぎゅっと眉間に皺を寄せた。

どんな時でも人をからかうような態度をとってしまうのは、僕の悪い癖だ。
分かっているのに、治せないからたちが悪い。


「ごめん、冗談。大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」


黙ってしまった千鶴ちゃんに笑ってそう言うと、ほっとしたように胸をなで下ろす。
それは彼女の優しさなんだろう。

けど、今の僕には思わせぶりな態度にも見えてしまう。


…末期だと思う。本当に…。


「あ〜…。洗濯は終わったんだよね?どうする?部屋に戻る?」

「そのことなんですけど…」


洗濯が済んだら、千鶴ちゃんがいつもしているはずの一通りの仕事は終わり。
だから部屋に戻るのかと思って、それを確認するべく見送ろうと立ち上がった。

彼女は一応ここでは秘されるべき存在だ。

隠さなきゃいけない案件がある以上、ほいほいと外になんか出ることは許されない…というのが、一応の建前。

今じゃ毎日のように勝手場に立って、掃除をして洗濯をして、皆のために色々してくれる、ありがたい存在。


「いつもありがとう」

「………え?」


だから、何か言いにくそうにしている彼女を待つ間、普段の働きを労う言葉をかけた。
それだけなのに。


「なに、その顔。いつも頑張ってくれてるから言っただけなのに。それじゃ僕が誰にも感謝も何も感じない、酷い人間みたいじゃない」

「あ…いえ。すみませんでした…。でも…だって……沖田さんがそんなことをいきなりおっしゃるから…。…………」


鳩が豆鉄砲を喰らったような顔ってこんな顔なのか、ってくらい千鶴ちゃんは驚いていた。

まあ、ね。改まって伝えたりしないから、驚かれるのも無理はないと思う。

でもさ、聞こえちゃったんだよね。



―――洗濯物、取り込んだ方がいいかな…



……さすがに失礼すぎ。







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