想いの行方(仮)

□気まぐれ
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でも、こんな話を聞いてしまったからこそ浮かぶ、疑問もできた。


「どうして、私に教えてくださったんですか?」


一度は無理だと言いながら、悩みながらも今日は頷いてくれて。
もちろん迷惑なんかじゃなかったし、私にとっては幸いなことだった。

でも、自分の決めたことを簡単に曲げる人ではないと思っていたから、不思議ではあった。


「…気まぐれだよ、ただの」

「そう、ですか」


私の質問に答えてくれたその顔色は、言葉以上の何かを読むことはできない。

気まぐれということは、次はないんだろう。

そう考えると、残念だな、と思う自分がいる。
皆さんが忙しい身だと知っていながら、我が儘を言ってしまいそうになる。

でもそれは、言ってはいけない我が儘だから。


「今日は、ありがとうございました」


また次も…、とは言えなかったけれど、私は頭を下げた。


『ありがとう』と、それから…。


考えるまでもなく、今回は簡単にできた。

この気持ちを、どうにかして返したいけれど、なにも浮かばない。
でも、これだけはちゃんと伝えたかったから。


「…別に。気が向いただけだから」

「たとえそうだとしても、私は嬉しかったので」


素直にそう伝えると、沖田さんは軽く顔を背けて何事かを口の中で呟いたように見えた。

でも何かを言うでもなく、小さく息を吐いてぽつりと呟いた。


「また、気が向いたら見てあげるよ」

「本当ですかっ!?」


思いもよらない言葉に思い切り詰め寄った私は、驚いている沖田さんに、その瞬間は気づかなかった。


「え……う、うん」


勢いにのまれて頷いたとも知らず、それを見た私は完全に舞い上がった。


「約束ですよ!」

「…え?」


けれどそう言って、差し出した小指を戸惑いの表情で見ていることにようやく気がついて、はっとした。

つい勢いにまかせてしてしまったけれど、『気が向いたら』の意味をはき違えて、しかも指切りまでせがもうとしていたなんて。

早とちりなうえ、子供っぽいところまで見せて。
自分の軽率さを表した手を引っ込めようとした時だった。


指切りなんて、子供みたいだと馬鹿にされるかと思った。

調子にのるな、と嫌みでも言われるかと思った。


なのに…。


「まあ、確約はできないけど…」


ちょっとだけ笑った、いつもとは違う顔が、とても印象的で。


それから。


私のものより大きな手が、意外にも優しいことを知った。






20120202
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