想いの行方(仮)
□彷徨
2ページ/5ページ
「……で。どうして、こんなことになっているわけ?」
「さあな」
「……余計なのが二人も付いてきて、しかもわざわざこんなところだし」
「ま、いいんじゃねえか?たまには」
「……そりゃ、左之さんはいいですよね。どこに行ってもお酒を飲むだけだし。今日は、お得意の腹踊りをしないんですか?」
「腹踊りじゃねえよ」
「似たようなものじゃないですか」
「全然似てねえよ」
目の前で浮かれまくっている二人と今の僕は、まるで正反対の気分だ。
普通だったらその辺の店で済んだはずだったのに、今いるのは酒だけでなく『女』も同時に楽しめる場所。
もちろん僕は前者だけしか楽しむつもりはない。
けど、こんなところに出入りしていることがばれたら、ただでさえ厳しい立場が、もっと危うくなってしまうかもしれない。
もしかしたらそんなことは気にならない、どうでもいい、くらいにしか思われていないのかもしれない。
でも、自分で自分の首を絞めたくないし…。
鬱々と沈みかける僕の隣では、こんな状況になった原因の一端を担っている左之さんが、少しは気を遣っているのか、一緒に混ざって馬鹿騒ぎをすることもなく、珍しく静かに酒を飲んでいる。
いつもよりお酒の量も、言葉も大人しい。
でもそんなことで救われるはずもなく。
僕は舞妓におだてられて盛り上がる平助と新八さんを冷めた目で見ながら、やけ食いならぬ、やけ飲みをすることに決めた。
(こんな予定も、つもりもなかったのに…)
最近付き合いが悪くなった左之さんに、お酒を奢っていることがばれて、『左之ばっかりずるい!』『俺たちも!』となって。
もちろん拒否したものの、二人のお酒への執着は凄まじかった。
僕が一番触れてほしくなかった、左之さんだけに奢る理由を聞かれて。
今考えればそんなもの、軽く聞き流しておけばよかったんだ。
でも、変に勘ぐられることを危惧した僕は、今回だけ、とすることで、しつこく食い下がる二人をなんとかした。
…はずなんだけど、その選択は間違いだったのかもしれない。
こんな来たくもない場所で、呼びたくもない舞妓も一緒だなんて、楽しむことなんてできやしない。
嫌な匂いが邪魔をする酒を一気に飲み干す。
すると左之さんは、僕の意図に気付いたように声をかけてくきた。
「さっきも言ったけどよ、たまにはこういうのもいいんじゃねえか?」
「どこが。僕にはさっぱりですけど」
「考えごとをしながら酒を飲んでも、旨くねえだろ。たまには色々忘れてみるっても、ありだと思うがな」
それも有りなんだろうと思うし、分かる気がする。
でも、考えごとをしていても、していなくても。
ここに彼女がいないんじゃ、味も気分も変わらない。
前は、楽しかった。
本音を知る直前までは、だけど。
それでも隣にいて、話して、笑顔は見れなくても久しぶりに色々な顔を見ることができた。
お腹をならしてしまったときの、恥ずかしそうに頬を染めたところは、文句なしに可愛かった。
今は誰もいない空間は、ひどくつまらない。
…違う。
寂しい。
ここにいることを知られたくないと考えていたくせに、ここにいてくれたら、と願ってしまう。
そう考え始めたら、なんだか飲む気分にはなれなかった。
。