想いの行方(仮)

□兆し
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そこにいたのは、やっぱり平助君と原田さん、そして永倉さんだった。


「おかえりなさい」

「お〜、千鶴。ただいま」

「今戻ったぜ、千鶴ちゃん」


振り返ってそう言った面々の息はちょっとお酒臭くて、顔も少し赤い。
それに普段より上機嫌な彼らの様子から、楽しくお酒を飲んできたことはすぐにわかった。


「こんなところで申し訳ないんですけど、これ、乾いた着物と隊服です」

「わざわざ俺らの帰りを待っていたのか?」

「えっと…。…はい」

「それくらい、適当に部屋に置いてくれてかまわないぜ」

「そういうわけには…」


やっぱり。
想像通りの答えで、逆に返答に困る。

あらかじめ『大丈夫』と言われていても心苦しいのに、無断でだなんて無理。

自分の立場云々を抜きにしても、常識的に。

答えに詰まる私を見て、なんとか察してくれたらしい原田さんは苦笑を浮かべた。


「お前らじゃねえんだ。千鶴がそんなこと、できるはずねえだろ」

「そういうもんなのか?」

「さあ?」


二人は本気で不思議そうに顔を見合わせる。

その間に、原田さんは私の手から、積まれた着物の山を受け取った。


「遅い時間にすまねえな、千鶴」

「いいえ。急いだ方がいいのかな、と思って、勝手に私が待っていただけですから」

「勝手とか、そんなことねえよ。いつも助かってる」


原田さんは今度は、ありがとうな、と言って、未だ顔を見合わせていた二人の背中を押して、ようやく玄関から移動を始めた。


「そうだ、千鶴。すまねえついでに、水を持ってきてもらっていいか?」

「あ、はい。四つでいいですか?」


確か、出かけていたのは四人。

人数分必要なのか、それとも少なくてもいいのか。
一応確認しようと聞いた私に答えたのは、原田さんではなかった。


「あ〜、俺も俺も」

「ってことで、千鶴ちゃん。三つで頼むぜ」


なんだったら酒でもかまわねえぜ、と陽気に三本の指を立てる永倉さんに、私は首を傾げた。


「三つ、ですか?沖田さんはいらないんですか?」


そういえば、まだ沖田さんの顔を見ていない。
一緒に出かけたはずなのに、まだ帰ってこないんだろうか。
というか、同じ場所に帰るのに、どうして別々に行動するんだろう。

そろそろ門限のはずなのに。

門限破りは局中法度で切腹と決まっている…らしい。
かなり厳しい決まりだけれど、組長みずから破るわけにはいかないため、皆さんはいつも厳守してきた。

まだ門限を過ぎたわけではないけれど、罰則が重すぎるため、さすがに心配になってしまう。


「総司はもう少し残るって言ってたぜ」

「そう、なんですか?」


だったら、あんなに急がなくてもよかったのかも。
頑張っていただけに少し残念だったけれど、でも逆に考えれば、猶予ができたということでもある。

そんなふうに前向きに考えていただけに、先を歩く永倉さんと平助君の何気ない話声が聞こえて、驚いた。


「しかし、総司が舞妓を側に置くなんて、初めて見たかも」

「そういや、そうかも。あいつ普段は、邪魔、とか言って近寄らせねえもんな」

「…え?」



沖田さんが…?

舞妓さんを…?



(でも、確か以前は…)


驚きすぎて、その場を動けなくなった。

二人が嘘を言っているようには、とうてい見えない。

でも沖田さんは、今ここにいない。

つまり、そういうこと。





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