想いの行方(仮)

□亀裂
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何も聞こえなくなった玄関に、どれだけ立ち尽くしていたのか。
冷えきった足の裏が痺れている。

もう、ここにいてもすることが無いし、眠らなくてはいけない。
私は部屋に戻ることにした。

部屋へ戻ると、まだ途中だった繕いものがあった。

そういえば、平助君たちが帰ってきたから中断したんだった。

私はそれを手に取ると、残してあったほつれを縫いはじめた。

でもどうしてか。真っ直ぐ縫うのが難しい。

縫ったばかりの箇所をほどいて、もう一度針を通す。

けれど結果は同じ。むしろ悪くなったかもしれない。

すぐ終わると思っていたはずなのに、これではいつまでたっても終われない。

自分のものなら、少しくらいの手抜きをしてもいいけれど、でもこれは、幹部のかたの、新選組の隊服で。
そんなこと、できるはずもない。


「……できた」


三度目で、ようやく許容できるものができた。

納得はできないが、なんとかそれなりに見ることができるだろう。

広げた隊服は、昼の空の下で見るのとは違う、薄く雲がかったような、くすんだ色をしている。

本当はちゃんと、綺麗な浅葱の色しているのに。

不吉な色だと言う人もいるだろうけど、私はこの色が好きだ。
新選組を象徴する、彼らの覚悟を表した色。

今日はもう、渡すことはできそうにないから、明日のために、きちんと畳んでいく。

きっと平助君たちと同じように、適当に部屋に置いておけばいいのに、と言われるんだろうな。
想像して、少し笑みが浮かんだ。

その瞬間、ぽとりと水の粒が落ちた。


「…あれ?」


それは瞬く間に布に染みて、濃い色を一つ、浅葱に残す。

慌てて天井を見上げても、雨漏りなんてどこにも見あたらない。
そもそも雨なんて、降っていない。

もしかして涙かな、と頬に触れてみても、どこも濡れていない。

さっきの滴がどこからきたのか不思議ではあったけど、雨漏りでないならとりあえずは問題ないだろう、と眠ることにした。

明日も早く起きて、朝食作りの手伝いをして。

洗濯もしたいけど、明日は雨でも降ればいいのに。

そうなれば、変に期待をしたりしなくてすむ。

何より今は、会いたくないから。

どんな顔をすればいいか、分からない。



言い過ぎてしまった。
私たちは、あそこまで口出しできる関係ではないのに。


彼は、ひどく驚いていた。
怒ることもせず、ただ傷ついた顔をしていただけだった。


目を閉じると、すぐ眠りに落ちた。
知らないうちに疲れがたまっていたのかもしれない。


彼の瞳に映った自分は、嫌な顔で笑っていた。


そんなところを、見たくない。


あんな顔を、見たくない。


そんなふうにさせてしまう自分を―――見せたくなかった。





20130327
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