想いの行方(仮)
□傷
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土方さんから頼まれた、という大義名分があれば…。
部屋の中で帰結することなら…。
ここにいても許されるという言い訳になるから。
逃げていても気づかれないだろうから。
そんな自分勝手な理由だ。
迷惑をかけていると知りつつも、自己中心的な行動しかとれない私は、やっぱり子供なんだ。
だから、沖田さんのからかいの対象にされたんだろう。
もう少し、上手く立ち回れたなら。
もう少し、早く気づけたら。
もう少し、人生経験を詰んだ大人だったら。
こんなことをせずに済んだのかもしれない。
こんなに悩まなくても済んだのかも知れない。
あんなに…。
昨夜の沖田さんの顔が浮かんで、胸が傷んだ。
今までさせてきたものとは、明らかに違っていた。
傷ついた顔をしていた、すごく。
私が何か言うたび、困惑から変わっていった。
もし、私が同じように誰かに言われたら、泣いてしまうかもしれない。
それくらい酷いことを言ってしまったのだと、今は反省をしている。
そもそも、私には関係のないことなんだから、沖田さんがどうしようと、どうなろうと好きにすればいいだけの話。
そこで私に影響があるなら話は別だけれど、昨日のことはそれに当てはまらない。
今までの彼の言動を責めることはあっても、昨日の件については何も言う資格も、それこそ、沖田さんが言ったように筋合いもない。
…はずだったのに。
「…っ」
急に目の奥が痛んで、視界がぼやけてくるのはどうしてだろう。
怒りを覚えても、逆の感情に囚われることなんて、なかったはずなのに。
太股の上に置いた手で袴ごときつく握りしめても、誤魔化せなかった。
おさまる気配を見せない感情に、このままではまずいと感じ、急いで頭を下げた。
「変なことを言ってしまって、すみませんでした。もう、戻ります」
我慢だ。
まだ、駄目。
土方さんの返事を聞く前に、私は彼の部屋を出た。
俯きがちだった顔を見られないよう、少し乱暴だったけど障子を閉める。
どこか一人になれる場所、と考えても、どこも浮かばない。
庭、広間、勝手場、道場。
屯所から出ることが許されていない私には、これくらいしか選択肢がない。
でも、どこも人の出入りがありそうで。
庭の片隅の草木の影、とも考えたけれど、冬のこの時期に私を隠せるような植木はさすがにない。
結局、あそこしかないんだ。
私は走った。
誰かに見られる前に、そこに着きたかった。
。