想いの行方(仮)

□痛
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しかも昨日、一方的に責めてしまった負い目があるから、確実に私の分が悪い。

だから何も言えなかった。


「そんなことないなら、そう言えるよね?言えないってことは、そんなこと『ある』から、なんでしょ」


正論だと思った。

なにも返せず俯く私は、彼が今、どんな表情をしているのか、見ることができない。

ここで沖田さんを責めることはできる。

でもそんなこと、お門違いもいいところだ。

このことは、私だけの胸にしまっておけばいい。
それだけのこと。


「昨日の私は、どうかしていたんです。忘れてください」

「忘れて、どうなるの?」

「そ…れは…」


今までのように……違う。
以前のような関係に戻りたい。



私がここにいるのは、父様を探すため。

新選組は、私が逃げ出さないよう監視をする。

お互いの利害が一致したため、私はここにいる。

それだけ。



だから何もかもなかったことにして、何もなかった頃のように過ごしたい。

今はもう、それだけでいい。


「…忘れますから、今までのこと。だから沖田さんも、忘れてください」

「忘れる、って何を?何の話をしているのか、さっぱり意味が分からないんだけど」

「だから…」


この期に及んで、まだ私をからかうつもりなのか。

以前だったら腹立たしい気分になっていたことなのに、胸の奥がぎゅっと痛くなる。

私は叫びだしたい衝動を抑えようと、痛む箇所の着物を握りしめた。

それがいけなかった。


「…もしかして、泣いてた?」


沖田さんは袂を目にして気付いたようで。

あれだけひどい状態の頬を拭ったのだから、袂も同じようになるということに思い至らなかった私が悪い。
無意味なことと知りつつも、急いで腕を背後に隠した。


「…泣いてなんか…いません」

「じゃあ、それはどうしたの?どうしてそんなところが濡れてるのさ」

「沖田さんには、関係ありませんから」


私が泣いたことも、その理由も。

ここから先は、私が自分で答を見つけて整理しなくてはいけないことだと思うから。

まだ胸の中で燻っているものを、納得できる理由で鎮めなくてはいけないから。

だから、沖田さんには言えないと思った。言う必要がないと思った。

なのに、音をたてて軋んだ障子に思わず顔を上げた私は、言葉と息を飲んだ。


「答えたくないなら、それでもいいよ。けど、その言い方は止めてくれないかな」

「言い方…って…」

「前にも言ったけど、関係ないことなんて、ない」


…どうして?

別に沖田さんに何かされたわけでもなければ、泣かされた訳でもない。

だって本当に、関係のないことだから。

この件に関しては、直接何もされていないから関係ない、と言ったのに、何が気に入らないんだろう。

分からない。

分からないけれど、怒りを含んでいながらも、ある感情を堪える目は、苦手だった。

今まで色々言われて、されてきたけど、今は違う。

最初のきっかけに関しては沖田さんが悪いと思うけれど、問題はそこじゃない。

今の私にはそれしか言えないから、考えがまとまるまでは、と思っていたのに。

俯いたまま否定も肯定もしない私を見て、沖田さんが何を思ったのかなんて、考える余裕なんてなかった。


「もしかして、…土方さんに何かされた?」

「…はい?」


どこで何をどうしたら、そこで土方さんの名前が出てくることになるのか。

お酒の席でも土方さんを嫌いだと言い切るくらいだから、よほど根が深いんだろうな、とは思っていたけれど、まさかここまでだったとは。





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