想いの行方(仮)
□そばに……
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それから、少し休んでいるとお膳を持った平助君が部屋を訪れ、色々話をしてくれて、一人の食事だったけれど、楽しかった。
そして、なかなか戻ってこない平助君を呼びに来た、原田さん。
お膳と一緒に、平助君を半ば強制的に引きずっていって。
井ノ上さんが、山崎さんが用意してくれた薬、水桶と手拭いを持ってきてくれた。
永倉さんは、また稽古してやる、と嬉しくも、私にはもったいない言葉をくれた。
嬉しかった。
寝て、目が覚めて。
そのたび、誰かが心配して来てくれて、そこにいてくれた。
熱のせいか、起きているのか寝ているのか、分からない状態も何度もあっけれど、心強かった。
そんなときに見る夢は、たいてい同じだったから。
そこは、靄が広がる暗闇。
二人の人物が立っていて、お互いを見ている。
一人は『私』。
もう一人は…。
そこにいる『私』は、私が知らない自分だった。
『私』はいつも彼を傷つけていた。
酷いことを言って、それを見て笑っている『私』。
止めて、と何度叫んでも、『私』には届かない。
そして、それを見て私は泣いていた。
何度謝っても、立ち尽くす彼には届かず、虚空へと消えるだけ。
もう見ていることができず目を瞑ると、霞がかかった明るい空間と変化する。
そこには、彼以外の人達がいて、たまに誰もいない冷えた空気だけがあった。
どんな言葉を交わして、その時どんな顔をしていたのかなんて覚えていない。
けれど、少なくとも胸が痛んだりはしなかった。
むしろ、毎回同じような言葉で励まされた気がする。
もしかしたら、慰められていたのかもしれない。
そして目蓋を閉じると、また同じことを繰り返す。
何度も繰り返すうち、それが夢なのか現なのか分からなくなっていった。
『綺麗な舞妓さんにお酌をしてもらって、大好きなお酒が、もっと美味しかったんじゃないですか?』
―――やめて…
『舞妓さんなら男に見間違われることもないし、いいですよね』
―――やめて……
『綺麗だし、優しいし。女の人が苦手って仰ってましたけど、本当はまんざらでもないんじゃないですか』
―――違う…そんなこと思っていない…
『―――さんなら、ちょっと優しくしてあげれば女の人は見た目に騙されそうだし。相手に事欠かないですよね』
―――やめて!
もう何度も見た。
もう何も見たくなかった。
思いっきり目を閉じたせいで、涙が頬を伝い落ちた。
。