想いの行方(仮)

□そばに……
2ページ/4ページ







それから、少し休んでいるとお膳を持った平助君が部屋を訪れ、色々話をしてくれて、一人の食事だったけれど、楽しかった。

そして、なかなか戻ってこない平助君を呼びに来た、原田さん。
お膳と一緒に、平助君を半ば強制的に引きずっていって。

井ノ上さんが、山崎さんが用意してくれた薬、水桶と手拭いを持ってきてくれた。

永倉さんは、また稽古してやる、と嬉しくも、私にはもったいない言葉をくれた。

嬉しかった。

寝て、目が覚めて。
そのたび、誰かが心配して来てくれて、そこにいてくれた。

熱のせいか、起きているのか寝ているのか、分からない状態も何度もあっけれど、心強かった。

そんなときに見る夢は、たいてい同じだったから。




そこは、靄が広がる暗闇。

二人の人物が立っていて、お互いを見ている。

一人は『私』。

もう一人は…。




そこにいる『私』は、私が知らない自分だった。

『私』はいつも彼を傷つけていた。

酷いことを言って、それを見て笑っている『私』。

止めて、と何度叫んでも、『私』には届かない。

そして、それを見て私は泣いていた。

何度謝っても、立ち尽くす彼には届かず、虚空へと消えるだけ。

もう見ていることができず目を瞑ると、霞がかかった明るい空間と変化する。

そこには、彼以外の人達がいて、たまに誰もいない冷えた空気だけがあった。

どんな言葉を交わして、その時どんな顔をしていたのかなんて覚えていない。
けれど、少なくとも胸が痛んだりはしなかった。

むしろ、毎回同じような言葉で励まされた気がする。
もしかしたら、慰められていたのかもしれない。

そして目蓋を閉じると、また同じことを繰り返す。

何度も繰り返すうち、それが夢なのか現なのか分からなくなっていった。




『綺麗な舞妓さんにお酌をしてもらって、大好きなお酒が、もっと美味しかったんじゃないですか?』


―――やめて…


『舞妓さんなら男に見間違われることもないし、いいですよね』


―――やめて……


『綺麗だし、優しいし。女の人が苦手って仰ってましたけど、本当はまんざらでもないんじゃないですか』


―――違う…そんなこと思っていない…


『―――さんなら、ちょっと優しくしてあげれば女の人は見た目に騙されそうだし。相手に事欠かないですよね』


―――やめて!




もう何度も見た。

もう何も見たくなかった。

思いっきり目を閉じたせいで、涙が頬を伝い落ちた。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ