想いの行方(仮)

□なによりも、怖いこと
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沖田さんからの応えはなく、彼が何を思っているのか分からないことが怖い。
かといって、許しもないまま頭を上げることもできない。

冬の静かな時間の中、沖田さんの溜め息だけが、やけに大きく聞こえた。


「もういいよ。別に気にしてないから」


それは、私が思っていた通りの返答。

でも、想像と本人の口から聞くのとでは違いすぎた。

ようやく顔を上げることができたそこには、沖田さんの横顔しかない。


「…ありがとう、ございます。すみませんでした」


本当に、私には何もなかったんだ。

剣の稽古と同じ、ただの『気まぐれ』。

どうしてだろう。
納得して理解していたはずなのに。

喉の奥が痛い。


(俯いたら駄目!)


下を向きかけた自分を叱咤して、顔を上げる。

と、ちらりと寄せられた目と目が合う。

途端に走る緊張に、息が止まりそうだった。

逸らしたい衝動をぐっと堪えて、太股の上に置いた手で袴を握りしめる。

気付かれないように。悟られないように。

それが幸を奏したのか、私には分からない。

沖田さんは表情ひとつ変えないから。

視線を外されて、何かをおもうのは私だけ。


「いつまでそうしているの?」


だから、普段ならなんとも思わない一言にすら、過敏になる。


「し、失礼しました。すぐ…」


限界を感じ、この場から立ち去ろうと腰を上げた。

そこに沖田さんが近付いてくる。


「行くよ」

「行くって、…どこへ?」

「広間以外に準備がしてあるのなら、そこに行くけど。そのために呼びに来たんでしょ?」

「……はい」


それは、ちょっと違う。

朝ご飯はただの口実で、本当の目的は別にある。

でもそれは、確認できたから。


「…朝食はいつもと同じく、広間です」

「そう」


それだけを言って先を歩きだした沖田さんの背中は、どこかよそよそしい。
こんなに遠く感じたことなんて、今までなかった。

それとも、今までが異常だっただけで、これが彼の通常なんだろうか。

ようやく俯くことができるのに、私の視線は前だけを見続けた。

割りきっている。
理解したうえで、全て。

それでも、些細なことに胸の挙動を左右されるのも、私だけ。

それがこんなにも辛いことだなんて、知らなかった。

重く凝る胸が苦しい。

自分で決めたこと全てを投げ出したくなる衝動を、唇を噛んでこらえる。

すぐに血の味が広がったけれど、どうせすぐに治る。

異常な、私の体質。

こんな気味の悪い私を、誰も認めてなんてくれない。

だから、今のままでいい。

手を伸ばせば届く距離にいることを許されて、でも本当に届くことは決してないけれど。





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