想いの行方(仮)

□天罰…?
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「だから、それを聞くのは俺じゃねえだろ」

「…は?」

「お前、気付いてねえみたいだが、口に出てるぜ」


そう左之さんに言われて、呆然とした。


「…全部?」

「全部かどうかは知らねえが、手遅れ〜、余地なし〜、立場が〜、か?俺が聞こえたのは、それくらいだな」


…どう聞いても全部です。


「…教えてくれて、ありがとう…」

「まあ、それくらいはな」


左之さんが言う『それくらい』って、どこまでなら含まれる?

具体的なことには何も言わないのは、その範囲外だから?

それとも、はっきり告げて僕が傷付かないように気遣ってくれてる?

とか思ったけど、左之さんが男相手にそんな優しさを見せるはすがない。

その対象になり得るのは、今なら彼女だけだ。

むしろ、男の僕に今まで付き合ってくれていたことの方が驚きだ。
酒の誘惑があったとしても、青天の霹靂。


「…明日は晴れるね、きっと」

「天気が読めるのか?」

「…いや、そんな感じがしただけ」


変な奴だな、と酒をあおる左之さんと同じことを僕がしたなら、皆の反応は真逆だろう。

というか、実際そうだったし。

僕の扱いなんて、所詮そんなもの。

改めて、本当にもう打つ手なしなんだと思った。

だったら、どうして…。


「今日はもう帰るか」

「いいんですか?今日は左之さんだって、ほとんど飲んでないのに」

「目の前に辛気くさい顔した奴がいたんじゃ、酒も美味くねえしな」

「……すみませんね」


以前からだけど、こんな状況の僕が楽しく酒を飲めるはずがない。

特に今は。

さっさと席を立った左之さんの後を追うように、なんとか立ち上がった。
もちろん、ここの勘定は僕持ちで。

店を出ると、冷たい空気に思わず肩が震える。

酒を飲まなかった僕には、かなりきつい。

でもこんな中、今日もきっといるんだろう。

ほとんど外と変わらない、あの場所で。

あの酔い潰れたあの日から、屯所に帰ると毎回同じ光景が見られるようになった。

最初は偶然かと思った。
次は、また酔い潰れていないか心配されているのか、と。

でも、そうじゃない。
いくら人がいいといっても、毎回心配されるはずない。

そう必死に言い聞かせないと、変に期待してしまう自分がいる。

そうしないと、『もしかして…』と、限りなく皆無に等しい可能性が生まれてくる。


(そんなこと、あるはずないのに…)


熱でうなされている本人の口から直接聞いたんだから、間違いない。

あれは彼女が普段は隠している本心なんだろう。

熱があったからこそ、普段は抑えているものが出てしまった…。
そう考えるのが妥当だ。

でも、だったらなんでこんなことをするのか。
僕にはさっぱりわからない。

見えてきた、屯所の門。

そこをくぐり、歩く少し先を見ないよう、心がける。

それでも人の気配に聡いせいで、分かってしまう。


「おかえりなさい」

「今帰ったぜ、千鶴。いつも悪いな」

「いいえ。私が勝手にしていることですから。沖田さんも、おかえりなさい」

「うん…ただいま」


ようやく顔を上げたそこには、いつも白いはずの頬を赤くて笑う千鶴ちゃんの姿があった。


「あとで部屋に水をお持ちしますね。あ、それともお茶の方がいいですか?」

「いや、今日はそんなに飲んでねえし、俺の分は必要ねえよ」

「わかりました。沖田さんは?どちらがよろしいですか?」


僕は全然お酒を飲んでいないから。だから、どっちもいらない。

そう答えるのが、話の流れ的に合っている。


「じゃあ、お茶を…」

「今日も冷えていますし、そちらの方がいいですよね」

「そう、だね」


笑いかける彼女から顔を背けて、自室に向かって歩き出す。

同じ方向に部屋があるはずの左之さんが向かうのはなぜか、全然違う場所。

疑問に思うけど、僕が振り返ることはない。

どうして?勝手場に行くんじゃないの?

そのためにお茶を頼んだのに。

自分の歩調で歩く僕の背後に、もう一つの足音がついてくる。

ゆっくり歩いているつもりはない。

むしろ小さな身体には早いくらいだと思う。

なのに…。







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