内緒の小部屋

□つないだ手をそのままに…
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「千鶴ちゃん、準備できた?」

「あっ、ち、ちょっと待ってください…今、草履を……」

「そんなに急がないから、あわてなくてもいいよ」


一足先に家の外に出て、あたふたと荷物をまとめ、ようやく草履を履きはじめた千鶴ちゃんに声をかける。

千鶴ちゃんはすみません、と謝りながら必死に手を動かそうとしているんだけど、焦りすぎてうまくいかないみたいで。
手にした草履を何度も取り落としそうになるもんだから更に焦って…の悪循環。

そんな彼女の小動物のような動きを見ていると身体の辛さなんて忘れて、つい笑みが浮かぶ。
本人にそれを言ったら赤く染めた頬を膨らませて、ひどいです!とか言うに違いない。


「お待たせしてしまってすみませんでした」

「じゃあ、行こうか」


準備を終え笑顔で近づいてくる千鶴ちゃんに手を差し出す。


「…はい」


小さな声と、おずおずと動かし始めた小さな手。

それが重ねられる前に僕から絡めとると、びくりと震えて手を引くわずかな抵抗。
それを無視して、小さな手をしっかりと握りしめた。

千鶴ちゃんからを待っていたら日が暮れちゃうからね。

いまだに慣れないのか、握った手は固いまま。
ここに来る旅の途中で何度も、それこそ移動中はずっと握っていたくらいなのに。
こんなことにまだ恥ずかしがって、ほんのりと頬を染めるところなんかは何度見ても、欲目抜きで可愛い―――可愛いんだけどついいじめたくなるのが僕の性分で。

でも今は、早く目的を果たすため、そんなことをしている時間すら惜しい。


「身体は平気?辛くなったらちゃんと言うんだよ」

「はい、大丈夫です」


傾きはじめたばかりの陽はまだ高く、本当ならこんな時間に起きて外出するなんてしたくない。

正直、羅刹の身体にはまだ少し辛いのが本音だ。
体力のある僕ですらそうなのだから、千鶴ちゃんにはかなり負担を強いる。
彼女は僕に心配をかけまいと強がる傾向にあるから、普段から注意して見ていないと。

にこりと微笑んで返事をする千鶴ちゃんをうかがうと顔色も悪くないし、足取りもしっかりしている。

少しでも早く帰ってくるために。
何度心配してもしたりないけど。
足下の注意を促す程度の会話だけで雪村の郷からの道を下った。





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