内緒の小部屋

□ちづるとお兄ちゃん・2
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暑い
とにかく暑い
暑すぎる



「あっつ〜…暑すぎ……いったいなんだっていうのさ、この暑さ…」


連日猛暑日続きの今日この頃。
夏休みに入って、学校の面倒な時間割から解放されたかと思ったら、今度はこの暑さ―――暑さ自体は夏休み前からだったが、に辟易する。

もう午後も4時に近づいているというのに、室温及び外気温度はまったく下がる気配もない。
日本は、というか地球はどうなってしまったのか。


『昔はこんなんじゃなかったんだがな』


と、家主が汗だくでよく話しているが、今の状況を考えると本当なのかと疑いたくなる。

エアコンはなるべく使わない方針のこの家で、唯一の良心の扇風機の前でアイスを食べるこの至福の時。

アイスを舐めながら居間の床に寝ころぶと、開け放った窓から忌々しいほどの蒼が目に入ってくる。

青い色は涼しげに感じるといったのは誰だろう。


(ずっと見ていてやるから、今すぐ涼しくしてみろってんだ)


自然現象なのだから、誰にもどうこうできないのはわかっていても、大人しくこの暑さを受け入れられるほど度量が広いわけでもない。

どうしようもない悪態をついていると、頭の方向からわざとらしいため息が聞こえてきた。


「…総司、それで今日は何本目だ」

「ん〜…何本目だろうね、覚えてないや」


言わなくても知っていることをわざと言わせようとする言い方に、とぼけた答えを返す。

確か3本目。

しかも最初の1本以外は他人のアイスだ。

そのあたりをバカ正直に話せば、寡黙なくせに意外と口うるさい弟からのお説教が始まるから、あえて言わない。

声の方から、たくさんの服の固まりを抱えた一が窓から室内へと入ってくるのが見えた。


「あれ、今日は一君の当番だったっけ?」

「いや、そうではないが、西の空が暗くなったきたからな。ひと雨きそうだ」


それに雷鳴も聞こえる、と言われ耳をすませば。
なるほど、かすかにその音を捕らえることができた。


「あ〜…本当だ。じゃあ僕はあっちかな」

「…総司、あまりからかってやるなよ」

「え〜でもさ、可愛くない?泣き顔とか、泣き顔とか、泣き顔とか」

「…すべて同じだ」


取り込んだ洗濯物を畳みはじめた一がため息混じりにたしなめる言葉も、総司には届かないことはわかりきっている。


「…そのうち嫌われるぞ」


だからとっておきの一言を呟いてみせれば、今にもリビングから出ていきそうな総司の足が、ぴたりと止まった。


「僕が嫌われるとか、なんの冗談かな。全部愛情表現に決まってるじゃない」

「まだあんなに幼い子供に、そんなひねくれた愛情が伝わるとは思えんがな」

「ちゃんと伝わってるよ。一君こそ、もう少し愛想よくしないと、怖がられてそのうち避けられるようになるんじゃない?」

「それはない」

「どうしてそう言い切れるのさ」


変に自信に満ちた返事に訝しげに問うと、洗濯物に落とされていた視線と目が合う。


「ひねくれた愛情表現から逃げてくる千鶴を庇うのはいつも俺の役目だからな。そうしていれば嫌でも信頼は得られる」





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