内緒の小部屋

□サンプル
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「君たちは誰?名前は?」

 何よりも、これが聞きたかった。
 今の時代にそぐわない着物姿に、それ以外はそっくりな容姿。しかも千鶴に至っては声まで同じ。
 世界には、自分にそっくりな人間が三人いる、と聞いたことがある。けれどこれは、そっくりなんてレベルの話じゃない。
 『同じ』だ。何もかも。
 これでもし、ここも同じだったら笑ってしまう自信があった。

「沖田総司」

 けれど実際は、笑う余裕なんてあるはずもなく。こんな時にさらっと冗談を口にする人間へ向ける遠慮なんてなかった。

「嘘をつくなら、もう少しマシな嘘を選びなよ。そんな名前がホイホイあるわけないじゃない。新選組じゃあるまいし」

 騙すにしても、内容が幼稚すぎる。その名前を出せば、誰もが驚くだろうと思ったら大間違いだ。
 おかげで少し冷静になることができた。今なら鼻で笑うことができそうだったが、目の前の人物はそんな沖田の態度など歯牙にもかけず、むしろ笑みを深めた。

「よく分かったね。正真正銘、僕が新選組一番組組長の沖田総司だよ。こっちは僕のお嫁さんの沖田千鶴。可愛いでしょう?」
「は、初めまして。沖田千鶴です」
「……千鶴って」

 呆然と呟いたのは千鶴だった。すでに話についていけない千鶴は、自称『沖田総司』もだが、こっちの方が驚きだった。
そんな千鶴の様子に『沖田総司』が目敏く気がついた。

「どうかした?」
「え?えっと……あの……」

 千鶴がよく知る沖田と同じ顔が、沖田と同じように聞いてくる。が、現状ですら受け止めきれていないため、それに返せるはずもない。慌てている千鶴の代わりに、沖田が答える―――こちらは”まだ”落ち着いていた。

「どうしたもこうしたも。奥さん、僕の彼女と同じ名前」
「へえ、そうなんだ」
「は、はい。雪村千鶴です」
「え?」

 素直すぎる千鶴の自己紹介に驚いたのは、もう一人の―――沖田千鶴の方の千鶴。

「どうかしましたか?」
「いえ…。私、旧姓が雪村だったものですから、驚いてしまって」
「……え?」

 信じられない偶然に、呆然とする二人の千鶴。
 同じ顔どころか、同じ名前の人間が二人もいる不可思議な状態。これは、いわゆるドッペルゲンガーというものだろうか。しかもこれから言おうとしていることは、そこにさらに二人の人間を付け足すことになる。

「ちなみに、僕は沖田総司。そこにいる誰かさんと同姓同名」
「あ、やっぱり?」
「やっぱり、って。知っていたの?」
「さっき初めて会ったばかりなのに、僕が知っているわけないじでしょう。でも同じ顔で、話し方も似ているし、千鶴と同じ顔の女の子が側にいるし。だとしたらここは夢の中で、君たちは違う僕たちなのかな、と」

 そう思うことで、少しでも今の状況を楽しむことにした。もう一人の『沖田総司』は楽しそうに言った。それはもう、誰が見ても楽しんでいると分かるくらいに。
 千鶴は二人とも状況を飲み込めず、オロオロしている。ちなみに、沖田もいっぱいいっぱいだったが、表面上は取り繕っていただけで、内心かなり混乱している。
 だというのに、余裕で現状を楽しんでいる約一名。さっきから、視線が千鶴の方を向いていて余計に気に入らない。
 奥さんと同じ顔なんだから、わざわざこっちの千鶴を見ることないのに。

「千鶴ちゃん。ちょっと部屋に戻っていてくれない?」
「え?」

 どうして、と言いたげな千鶴に早く、とだけ言い加える。
 気づいていない千鶴に説明するのは嫌だ。というより、そんなところを見られたくなかった。それは千鶴にではなく、いまだ千鶴を見続けている沖田総司と名のった男から。そしてなにより、少しでも早くあの、意味ありげな視線から隔離したかった。
 しかしそれを知ってか知らずか。現状を楽しもうとするところは変わらなかったようだ。

「だったら僕の千鶴も連れていってよ」
「「「え?」」」






こんな感じの本です

若干アレな表現もありますが、きっと健全です(*・ω・)ノ ヨロシクネ

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