内緒の小部屋

□サンプル
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飛華


…途中から抜粋



 二人で出かける時はたいてい買い出しがメインで、目的もなく外出する、なんてことはなかった。総司の気まぐれがなければ、こんなにも満ち足りた時間を過ごすことができなかっただろう。
 食事が済んで店を出る頃には、まだ帰りたくない、と思ってしまうほど、千鶴は今日のデートを満喫していた。
 そして何の説明もない総司に引かれる形で、歩き始める。

(……もう、帰らなきゃいけないんだ)

 思い浮かぶ限りの店をたくさん巡って、食事も済んだ。となれば今日はもう帰るだけ。なんとなく漂うデートの終焉に、千鶴の足取りが重くなる。
 二人で暮らす部屋が嫌なわけではない。むしろ、待っていれば必ず会えるから、帰ってきてくれるから好きだ。が、なんとなく寂しい。お祭りが終わるときの感覚に近いかもしれない。
 千鶴は総司の腕にぎゅっとしがみついた。

「どうかした?疲れた?」

 総司の気遣いに、ふるふると首を振る。まだ帰りたくないなんて、口が裂けても言えない。

「よかった。実は行ってみたい場所があるんだけど、いい?」
「はい」

 自分の思いが伝わったように感じて、千鶴は一も二もなく頷いた。
 そして歩くこと数分。駅とは反対方向に向かっていることに気が付く。

「どこに行くんですか?」
「ん?まだ内緒。確か、もう少し先に……」

 あるはず、と自信なさげな総司の口振りからして、彼自身も目的地の場所を知らないようで、時折右に左にと視線を巡らせる。場所もわからないのに行きたいなんて、よほどそこに行きたいにちがいない。もしかしたら、こういった機会でもなければ知ることができない一面を見ることができるかもしれない、と千鶴はもう何も聞かずにいた。
 しかし程なくして後悔することを、このときの千鶴は知る由もなかった。

「ああ、あったあった。ここだよ」
「……ここって」

 大通りからはずれた場所で、総司が見つけたそこは…。

「嫌ですっ!」
「まだ何も言ってないじゃない」
「何も言わなくても、一目瞭然じゃないですか!」







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