短文。
□甘い悪戯
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十月末日。
明日になれば十一月になるというのに今日はとても暖かくて。
非番だった僕は特にすることもなく縁側で久しぶりの暖かさを満喫していた。
他の隊士達は巡察や稽古に出払っているせいか、いつもは騒がしい屯所はとても静かで、時折吹く風が落ち葉を揺らす音や鳥のささやかな鳴き声が聞こえるくらい。
心地よい暖かさと静けさについうとうとしていると、とたとたと小走りにこちらに向かう足音が聞こえる。
その音にそちらを見やれば、予想通りの人物がひょこっと顔を見せた。
『沖田さん。近藤さんから金平糖をいただいたんですけど、一緒に食べませんか?』
姿を現した千鶴ちゃんは小さな包みを大切そうに抱え、満面の笑みで聞いてきた。
『いいの?君が貰ったんでしょ?』
『はい。誰かと一緒に食べたほうがおいしいので、ぜひ』
『じゃあ少し貰おうかな』
せっかくの申し出を断るのは気が引けてそれに応じれば、更に笑みが増して本当に嬉しそうに笑う千鶴ちゃん。
『私、お茶を淹れてきますね』
そう言って跳ねるような足取りで勝手場に向かう彼女の背中を見て苦笑を浮かべた。
『…近藤さんも甘いよねぇ。まぁ、あんな顔されちゃうとその気持ちもわからなくもないか』
近藤さんも他の幹部たちも、彼女にお土産だとよく甘いものを買ってくる。
その度に嬉しそうに―――本当に嬉しそうに笑って、「ありがとうございます」と彼女は言う。
それは見ているこちらも幸せになれるような笑顔で、皆その顔が見たくて【お土産】を買ってくるのを知っていた。
でも僕が【お土産】を彼女にあげたのは一度だけ。
千鶴ちゃんの喜ぶ姿はとても可愛くて、その笑顔が見れて嬉しかった。
でも…
千鶴ちゃんは誰かに同じことをされても同じように笑って喜ぶ。
それがなんだか気に食わなくて胸がムカムカする。
それに―――
『…皆の二番煎じみたいで嫌だし…』
『何が嫌なんですか?』
訳の分からない、持て余した自分の感情を口にするといつの間にか戻ってきた千鶴ちゃんがいて。
土方さんに頼まれた仕事のことだよ、と誤魔化せば、あまり聞いてはいけないのだと思っているのか、頑張ってくださいね、と頷いて僕の隣に腰をおろした。
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