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□繋がる糸の先は…
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「ごめんなさい、先輩。もう少し待っていただけますか?」

『うん。時間は気にしなくていいんだけどさ…。』

棚に並ぶ大量の商品に手を伸ばしては元に戻して、また好みの物を探しはじめる。

ここに来てから何度も繰り返すその動作は見ていても別に飽きないけれど…いい加減気になってくる。


そんなに真剣に悩んでいるのは誰のためなのかを。




「沖田先輩。今日、この後ってお時間あります?」

部活が終わり、帰り支度を終えた僕にそう声をかけてきたのは、マネージャーである千鶴ちゃん。

なんでも部活で必要な物があるから買い物に付き合ってもらいたい、とのこと。


最近不審者がうろついているとの情報に、なるべく一人での行動は控えるよう学校側から強く言われていた。真面目な千鶴ちゃんはその言い付け通り、買い物のお供にと僕を選んだらしい。


それ自体は良かった。どうせこのまま帰っても暇だし、千鶴ちゃんを見ているのは面白いし、イタズラしてもその反応が楽しいし。

だからその申し出に二つ返事でオーケーを出した。



一通りの買い物を終えて帰ろうとしたときに、千鶴ちゃんが建物のフロア案内図を見て何かを考えているのに気付いた。


『何か欲しいものでもあるの?』

「あ、いえ…。そういうわけでは無いんですけど。」

言葉を濁してはいたけれど、それは控えめな彼女の肯定だと短い付き合いながらも知っていた。

まだ一緒にいたかったし、千鶴ちゃんが欲しがっているものに興味もあった。

『僕はまだ時間があるから、行きたい店があるなら付き合うよ。』

「じゃあ…ちょっとだけいいですか?」




そうして行き着いたのが今居る手芸店の一角。目の前に並ぶのは、何がどう違うのか僕にはさっぱり分からない、膨大な量の毛糸達。

一角、と言っても今の時期から需要が増すため広いフロアの四分の一を占める勢いに軽く目眩がした。

それなのに千鶴ちゃんは慣れた様子でその毛糸の中からあれこれと手にとって真剣に選んでいた。


『千鶴ちゃんて編み物するの?』

(いや、するからこんなところに居るんだろうけどさ…。)

自分がした間抜けな質問にツッコミを入れていると、千鶴ちゃんは毛糸に向けていた顔をこっちに向けて笑顔で答えた。

「はい。小学生の頃に母に強請って教えてもらいました。今は部活で忙しいから簡単な物しか出来ませんけど。」

『簡単とか難しいとかあるの?』

「そうですね。簡単な物だとマフラーとか帽子とかレッグウォーマー辺りでしょうか。難しいのになると…」

一端言葉を切った千鶴ちゃんは何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回した。

「あんな感じで模様を入れたり、色を変えて柄を作ったりします。」

その先には三つ編みみたいな模様や、色を変えて雪の結晶をあしらったサンプルらしきセーターが数点並んでいた。

どうやらここで毛糸を買えばこの編み方を書いた説明書きみたいな物が貰えるらしい。うまい商売方法だ。





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