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□クリスマスキス〜前編〜
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「先輩、まだ怒ってるんですか?」

『・・・別に。』

「部活だったんだから仕方ないですよ。」

『千鶴ちゃんはそれで納得しているの?』

「それは・・・。」

千鶴ちゃんにこんな事を言っても仕方ないっていうのは分かってる。悪いのはむしろ僕の方で、逆に千鶴ちゃんに責められて当然なのに。

「でも賭に負けたのは先輩だし、やっぱり仕方ないです。」


(そうだよね。・・・そうなんだけどさ。)


こんな時でも僕を責めない彼女の言葉は、逆に今は辛かった。

本当なら今頃は、この日まで点灯されているイルミネーションを見に行っている予定だったのに・・・。




つきあい始めて初めての恋人っぽいイベントの今日、本当ならどこかに出かけたりして、2人きりで過ごしたいと思うのが当たり前で。そのつもりでいた僕たちは今日はデートの予定だった。

雑誌を買ってここに行こうとか、この日限定のランチを食べに行こうとか話していたのに。

僕たちがつきあい始めた事を知った一君と部員たちからの嫌がらせで、一日中部活という、色気も何もない、ただただ汗くさいだけの一日になった。

千鶴ちゃんと過ごす時間は大切だけど、僕にとって部活も同じくらい大切で。だから午前中だけだと聞いて、予定をちょっと変更して部活に参加したのに・・・。

蓋を開けてみれば午後も部活。さすがにキレた僕は千鶴ちゃんを連れて帰ろうとしたのに、鈍い千鶴ちゃんが一君に捕まって。

そこで「俺に勝てたら帰してやる。」なんて普段の一君だったら言わないような言葉がきっかけで賭をする事になった。

最初は普通に試合をするつもりだったのに、誰かの言葉でなぜかジャンケンになって・・・。




『・・・普通に試合してれば絶対負けなかったのに。』

僕の呟きに隣から小さく「ごめんなさい。」と聞こえて。千鶴ちゃんを見ると、泣きそうな顔で俯いていた。

『なんで千鶴ちゃんが謝るの?』

「私なんです・・・ジャンケンにしようって言ったの。」

『・・・は?』

意外な言葉に何も言えずにいると「だってそっちの方が早く帰れると思ったから。」なんて言葉が返ってきて。




一君と僕の実力は同じくらいで、そうなると試合は一撃で勝負がつくか長引くかのどちらかになる。千鶴ちゃんは後者の場合を心配したんだろう。特にお互いに真剣勝負を望んだ場合はなかなか勝負が付かないから。



普段だったら僕を信じてくれなかったお仕置きに意地悪の一つや二つはしてあげるところだけど・・・。

『そんなに可愛いこと言われたら怒れないじゃない。』

落ち込んでいる千鶴ちゃんを慰めようと頭を撫でてあげても「ごめんなさい」と繰り返すだけ。いつもなこうすればすぐ浮上するはずなのに今日は効果がない。

(それだけ落ち込んでるってことか・・・。)

最近やっと2人の距離に慣れてきた千鶴ちゃんは、確かにこの日を楽しみにしていた。珍しく積極的に「ここに行きたい」と言って2人でプランを立てていたから尚更だろう。


『でもどうして僕たちが付き合ってるってバレたんだろう?』

付き合うことになって浮かれてはいたけど、邪魔されたくなかったからまだ誰にも言ってなかったはず。隠し事が下手な千鶴ちゃんもそんなに挙動不審な態度はとっていなかった・・・と思うけど。





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