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□繋がる糸の先に…
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『ごめんなさい、先輩。もう少し待っていただけますか?』
「うん。時間は気にしなくていいんだけどさ…。」
先輩はそう言ってくれるけど、それに甘える訳にはいかない。私は目の前に並ぶ大量の商品の中から目当ての物を探して手に取っては戻して、次の物を手に取って、を繰り返していた。
いつもは一人で見に来るから時間なんて気にしないけど今日は沖田先輩も一緒。急がなきゃと思うのに、私の希望の全てを満たす物はなかなか見つからず、余計に焦ってしまう。
せめて色が決まればまだ楽なのに…と隣に立つ先輩を盗み見た。
…沖田先輩ってどんな色が好きなのかな?
本当は手芸店なんて来る予定は無かった。お千ちゃんの家で編み物を教える約束をしていたから、部活で必要な物を買ってすぐ帰るつもりだったのに。
でも帰りぎわにフロアの案内図を見たら、この建物に大型の手芸店が入っていることを思い出した。
そして隣には今だにブレザーを着ないでいつも寒そうにしている先輩の姿。
せめてマフラーでも巻けば違うのにそれすらしない。
(…マフラー…編んだらしてくれるかな?)
別に特別な意味があったわけじゃない。
編み物は好きだし、先輩のことは嫌いじゃない。…意地悪されるのは嫌だけど、いつも優しくしてくれるし。
だからお世話になっているそのお礼にマフラーでも編もうかな、なんて考えていた。
「何か欲しい物でもあるの?」
『あ、いえ…。そういうわけでは無いんですけど。』
「僕はまだ時間があるから、行きたい店があるなら付き合うよ。」
この言葉にふと思いついた。贈る本人が居たほうが好みの色や素材を決めるのが楽かもしれない、と。
『じゃあ…ちょっとだけいいですか?』
。