無双部屋(short)
□雨
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「凌統…」
耳を押さえる俺の手を取り、甘寧が雨音以外の音を俺の耳へと直接吹き込んで来る。
「凌統。」
その声音は優しく…しかしどこか切なげに響いた。
「…甘寧。」
「痛ぇ…か?」
ただ、ひたすらに見つめて来るその目に、すべて見透かされそうで、思わず瞳から目を逸らした。
「アンタには、分かんないよ…。」
「ああ、俺には分からねんだろうな…でもよ、お前が痛ぇ思いしてんのは分かっから…俺が、させてんだって事も。」
「アンタの、せいなんかじゃ無いさ。」
そう、甘寧のせいじゃ無い。
あれは結果だ。
必然で、相手が誰であれ変える事なんか出来なかった。
逆の立場だったなら、俺だって…。
「前にお前、俺に言ったよな。感情がついていかないって。」
「…いつの話し?」
「随分前の雨の日に、俺お前にほざいたんだ。いつまでんな湿気た面してるつもりだよ…って…」
「…ああ…。」
あの時…
父が死んで、甘寧が呉へと加わり、初めて迎えた雨の戦。
あの戦の時も、雨音が俺の心中を掻き乱しながら響き渡っていたんだ…
「凌統…。」
「…」
「凌統!…てめぇ、聞いてんのかよ!」
「っ…何か用かい、甘寧さん?今話しかけないで欲しいんですがねぇ。」
「てめぇ…戦の前だってのに何て面してやがる!いつまでんな湿気た面してる気だよ!」
「なっ…分かってんだよ!俺だって!…アンタが、アンタが俺の父上を殺した事は、アンタにとってどうしようも無い事だったんだって、親を殺されるなんて話し、この乱世にはありふれ過ぎた話しなんだって!分かってるさ!ただ…ただ!感情がついていかない事だってあるだろ!!」
そう…あの時…暗い空も、冷たい雨も、陣の中の雰囲気も、これから聞こえるだろう叫び声も、流されるだろう血も…すべてがあの日の夏口を思い出させて…
出陣前だってのに顔に出てたんだろう。
辛い…
痛い……と……
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