無双部屋(long)

□伝えない 言葉 1
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雲ひとつ無い空、響く雄叫び、聞き慣れた金属音、んで、目の前には逆賊の頭。
この俺が撃ち取れねえ訳がねぇ!!
自慢の舞龍を振り上げ、刃を裏返し、思い切り打ち付ける。

「ぐあぁっ」

こんな奴、切るまでもねぇ!

「っしゃ!敵将撃ち取ったぜ!」
「俺らの勝ちだー!!」

目の前に転がる敵将を縛り上げ、部下に引き渡す。

「兄貴!こいつ呉に連れてくんですかい?」
「おうよ!おめぇ等!呉の城向けて出航だー!!」
「おおー!!」


俺が呉を出てから三年。
だが、最後に出たのは二月くらい前だったか…。
何だかんだと理由を付けて呉本国に寄る事は多い。
仲間も、始めこそ不思議がってたが、今じゃ当たり前の様にそうしてくれっから有り難ぇ。

自由な今の生き方はすごく俺に合ってると思うし、呉の武将に戻る気もサラサラねぇ。

だが…しばらく離れてると、どうにも気になっちまうんだ。

不器用なクセに、やたら強がりで意地っ張りな…アイツが。

本当、こればっかりはいくら俺でもどうしようもねぇ。
ま、アイツに気持ち振り回されんのも良いかもな、なんて思っちまってるから重傷だ。




「兄貴!軍師さんがお見えですぜ!」
「おー、分かった今行く。」

航海は順調。
数日後には無事港に到着した。
で、到着して数刻。
いつもの事ながら行動が早いこって。
天才軍師サマは…。

「よお!久しぶりだな陸遜!」
「ええ。お帰りなさい。」

いつもの笑顔。
こいつ、この顔で火計語りやがるから怖えんだよな。

「たでーま。こいつ、逆賊の頭な。」
「いつも有り難うございます。」

陸遜がそいつを部下に引き渡すと、並んで城に向かう。

「毎回出迎えご苦労さんだな。お前忙しいんだし、部下に頼みゃあ良いのによ。」

実際俺が呉の武将だった頃から、陸遜はいつ寝てんだか分からねぇくらいに忙しくしていた。
まぁ、俺がサボった分まで仕事押し付けてたから余計か。
一度本気で燃やされかけたな…うおっ、怖ぇ事思い出しちまった…。

「お気遣い有り難うございます。でも甘寧殿はいつも呉にとって有益な情報を仕入れて来てくれますので。早く聞きたいんです。」
「にしたって来んの早くねぇか?」
「ああ、甘寧殿の船は無駄に目立ちますから!すぐに報告が来るのですよ。」

(無駄って…)
まあ…良っか。


「野郎共はいつもの部屋で良いんだな?」
「ええ、構いませんよ。」
「毎回すまねぇな。」
「いえ。…甘寧殿はいつもの所ですか?」

ニッコリとした笑顔。
聞いてる顔じゃねぇな、確実に。
からかってやがる。

「まあ…な。」


クスクス笑う陸遜に一言何か言ってやろーかとも思ったが、やめた。
それより…。

「なぁ…陸遜、あいつは…」
「凌統殿なら元気ですよ。今は執務室にいるはずです。」
「…そうかよ。」

何もかもお見通しってか…これだから軍師ってのは…
少々げんなりしたものの、元気だとの言葉にホッとする。

だが、アイツの事だからな…。
自然、歩みが早くなる。
気になるんだから仕方ねぇ。

「甘寧殿、走って行って良いですよ。後の事は私が引き受けますから。」
「あー…悪ぃな!頼んだぜ!」
「はい。…ふふ、分かり易い人ですね。」

陸遜が何か言った気がしたが、走り出した俺にはもう、聞こえなかった。
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