long novel

□死欲
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「おはよーっす!」
「!?、ゴホッ!ぐっ!」


後ろから勢いよく抱きつかれて春人は飲んでいたコーラで咳こんでしまった。


「わ、すいません」
「てめ、トキ!」


咳こみすぎて涙ぐんだ目で相手を睨む。
時生はもう一度「すみません」と謝ったが、にこやかに笑った顔は本当に反省しているかどうかあやしいものだ。


少し長めの金髪をふわふわさせた長身のこの男は成瀬時生(なるせとき)。今、春人がボーカルを務めているバンドのギタリストだ。

高校時代に組んだバンド「RANE」(レイネ)は結成後数年が経った今、小さなライブハウスで月に幾つかのライブをやり、少しずつ知名度を上げている。

今日は来週に控えたライブの為、一日ライブハウスを貸し切っての練習日。
早くからスタジオに入っていた春人だったが、ほかのメンバーが来ないことには始まらないと、仕方なくみんなが集まるまではと廊下でジュース片手にぼんやりと暇をつぶしていたのだった。


「朝からテンション高ぇよトキ。若ぇーなぁ」
「あ。知ってます?若者に若いって言いはじめたら年寄りのショーコっすよ」
「イッコしかちがわねぇだろが!オヤジ扱いすんなっつの。オレはまだ21だよっ」
「知ってますよー、ハルはまだピチピチっすよ」


ムキになる春人の首に抱きついて(実際は時生の方が20cm近く背が高いから抱きしめるって感じだったけど)時生はケタケタ笑ってる。
春人も、つられて笑顔をつくる。
ふと、時生が春人の顔をのぞきこんで言った。


「寝不足すか?目、赤いですよ」
「え?赤くなってる?ウソやべえ」


時生の言葉に、慌てて目をごしごしと擦る。

 
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