おはなし

□わーるど話
1ページ/1ページ

 ここはいわゆる本拠地。
 広めの多目的スペースで、シーブックとザビーネの間を邪魔するようにしてキンケドゥが立って、三人は雑談をしていた。
「お前はシーブックに近付き過ぎなんだよ。もっと離れろ」
「貴様には関係ないことだろう」
「………ハァ」
 雑談とはいえないかもしれない。
 険悪な雰囲気を撒き散らしながら、キンケドゥとザビーネは睨み合う。
 シーブックは、止めた方がいいのだろうとは思いつつも、日常茶飯事のことなので「まぁいいか」とため息をつきながら、二人の様子を呆れ顔で見守っていた。
 そこに駆け足で近付いてくる人影がひとつ。
「キンケドゥさん!」
 名を呼ばれて、キンケドゥはザビーネから視線を外し、声のした方に首を回す。と、そこにはよく見知った顔があった。
「トビア!」
 嬉しそうに駆け寄ってくる少年に、キンケドゥは笑みを浮かべた。
「いたのか」
「はい、ついにマスターにノミネートされました!」
 トビアはキンケドゥのそばまで来ると、その顔を見上げて全開の笑顔を見せた。
「ぉー、おめでとう、トビア」
 キンケドゥも嬉しそうに笑い、トビアの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「キンケドゥ、この子は?」
 シーブックはトビアのデレデレしている笑顔を見てから、キンケドゥの横顔を見上げた。
 あぁそうか、とキンケドゥはシーブックを横目に見て、
「こいつはトビアっていって、オレの弟分みたいなもんだ。まぁ十年経てばわかるさ」
 そう言って楽しそうな笑い声をあげた。
 シーブックは「ふーん」と首をかしげながら、キンケドゥに撫でられている少年を見る。
 紹介されたトビアは、キンケドゥが話しかけている相手に視線を向けるなり、「ムッ!?」と大きな声を出してシーブックを驚かせた。
「キ、キンケドゥさん、この人は?!」
 キンケドゥは「あぁ」と今度はトビアを見た。
「こいつは十年前のオレで、シーブックっていうんだ」
「十年前のキンケドゥさん!どうりで可愛いと思いましたッ」
 その発言にザビーネは思わず眉をひそめた。
 しかしキンケドゥは特に深い意味を感じたわけでもなく、
「はっはっは、可愛いだろう」
 と冗談を言うノリだった。
 トビアは素早くシーブックの前に立つと背筋を伸ばし、少々戸惑っている様子の青い瞳を見た。
「初めまして!トビアといいます!」
「初めまして、シーブックだ」
 元気のいい挨拶にシーブックは微笑ましさを感じて、やわらかく微笑して手を出した。
「わっ、い、いいんですか!?」
「ぇ、え?あぁ…」
 シーブックに差し出された手を前に、モジモジし始めるトビア。普通に握手を求めただけのシーブックは、トビアがどうして恐縮するのかわからず、ハッキリしない返答をしてしまった。
「で、では失礼して…」
 トビアは恐る恐るシーブックの手に触れてから、ゆっくりゆっくり握っていった。
「ぉぉぉ…っ」
「??」
 感動に瞳を輝かせているトビアを見て、シーブックは困惑した。
 トビアはシーブックの手を両手で包み、大事そうに何度も撫でた。その表情はとても幸せそうである。
「ぅわ〜ぅわ〜」
「???」
 なかなか手を離さないトビアにシーブックはひたすら困惑した。
 そこへ。
「おい、貴様…いつまで触っている」
 間に立つキンケドゥを押し退けて、怒りのオーラを放ちながらザビーネはトビアの前に出た。
 トビアは驚いて顔を上げたが、しかしシーブックの手は離さなかった。それがまたザビーネの怒りゲージを上げた。
「いい加減に離せ」
「そ、そのアイパッチは…まさか、ザビーネさん?」
「そうだ。ほら、早く離せ、それは私のモノだぞ」
「僕はアンタのモノになった覚えはないよ」
 シーブックはザビーネを軽く睨みつけた。
 それでもトビアがシーブックの手を離そうとしないので、痺れを切らしたザビーネはさらに詰め寄り、
「ザビーネっ!!」
 キンケドゥに肩を強く引かれて後退させられた。
「くっ…何をする!」
「こっちの台詞だ!トビアをいじめたらタダじゃおかねぇぞ!」
 睨み合うキンケドゥとザビーネ。
「私がシーブックに近付けば怒るだろうに、この少年はいいのか」
「お前は危険だからな」
「不公平な…というか回答になっとらんぞ」
 ザビーネは思わず力が抜けて肩を落とした。チラリとトビアの方を見ると、やっぱりまだシーブックの手を両手で包んでいる。
 うむ、やはり不公平だ。
「よく見ろ、あれだってセクハラだろう。いつまでも手を握って」
「お前と一緒にするなよ。トビアはなついてるだけだろ」
「貴様の感覚が理解できんぞ…」
 なぜか自信たっぷりに言うキンケドゥに、ザビーネは頭を抱えた。
「ともかく、シーブックにはもちろん、トビアにも近付くんじゃない。というか消えろ、この部隊から一刻も早く消えてくれ」
「なぜいつもそこに繋がるのだ…!」
 二人からプツンという音がした気がして、シーブックはトビアの手を引いて数歩後退した。
 トビアは困惑した様子で、険悪な大人たちを見た後でシーブックを見る。
「まぁいつもの事なんだけどね…長くなるから、あっち行ってよう」
 シーブックは呆れ顔でトビアに耳打ちすると、握られた手のまま、その場をコソコソと離れていった。
「ぇ、ぇ、いいんですか?」
 トビアは手を引かれながらキョロキョロするが、シーブックに「いいんだよ」と言われ、「あぁなると長いし、お茶でも飲み行こうか」と笑顔で誘われると、一気にテンションゲージが上がり、元気よく二つ返事でその後についていくのだった。


 数十分後……。
 シーブックとトビアがいないことにようやく気付いたキンケドゥとザビーネは、一時休戦とし、いなくなった二人を探しに行った。「お前のせいだ」「貴様が絡むからだ」と互いに責任をなすりつけ合いながら。



-------
ワールドでもドゥとザビさんは険悪。
トビアは弟分な立場をうまく利用してブックドゥに近付いてはザビさんをギリギリさせてそうだな、とか思ったり。
2011.03.01

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ