おはなし

□キラさんとシンくん
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 今朝のミーティングが終わり。
 シンは恋人のルナマリアと少し話をしてから、自室へ向かう途中だった。
 出撃までまだ少し時間がある…カミーユに借りた雑誌がまだ読みかけだからその続きでも、思っていると。
「ぁ、シンのおしり見−っけ♪」
 サワリ、と尻に感触があると同時に、明るくて楽しそうで嬉しそうな声が聴こえた。
「ギァアアァァァ!?」
 シンは思わず大声を上げて跳ね上がった。突然すぎて一瞬何があったのかわからなかったが、これはつまりセクハラなのだと理解すると高速で振り向いて、犯人の顔をキツく睨みつけた。
「なにしやがるですか!キラさん!!」
 少し顔を赤くして、シンは自分が最も恐れる人物を怒鳴りつける。
 しかしキラには一遍も悪びれた様子はなく、
「探したんだよシン〜と言っても、ほんのちょびっとだけど」
 とても愛嬌のある笑顔でそんなことを言う。
 この人に対して強く出てもあまりイイコトはない。それをよく知っているシンは、セクハラされた箇所を片手で庇いながらため息をひとつ吐いた。
「さっきの言い方だと、オレを探してたのかオレのケツを探してたのか…まったくアンタって人は」
「両方だよ、あと唇も探してたよ、ついでに触覚も」
「触覚言うな!!!」
 シンの激しいつっこみに、その前髪が揺れる。
 叫び疲れたシンは一度フゥと息を吐いて気持ちを落ち着けた。その様子をキラがニコニコと見つめている。なんの用だと疲れた目で聞けば、小首を傾けたキラが楽しそうに言う。
「シンって可愛いよね」
「…寝言を言うなって誰かの台詞、パクっていいっすか…」
「だめ☆」
「なんでアンタが却下するんですか……そんなこと言いに来たんですか?」
 尻を庇っていた手を腰に当てて、シンは面倒そうに顔をしかめてキラを見た。あちらは何がそんなに楽しいのか、ずっとニコニコしている。
「違うよ、そんなのいつでも言えるし。ヒマだから散歩してただけだよ」
「ヒマって…出撃までそんなに時間はないですよ」
「でもまだ一時間くらいあるよ。だから何してようかな〜って、そうだシンと遊ぼうかな〜って思ったらちょうど見つかったから」
 へへ、と可愛らしく笑うキラは、本当に愛らしかった。可愛いとかよく言ってくるが、自分だって可愛いじゃないかとシンは思う。ただ、可愛い言動の内側がおそろしく黒いナニかに包まれているのが玉にキズというヤツ。決して悪い人ではないのだが。
「そういうわけだから、お茶しようよ♪」
 シンの手を取り、引こうとするキラ。シンは渋い表情で、前に出そうになった足をなんとか留めた。
「…えぇ……」
「じゃあ僕の部屋に来る?シンなら膝の上に座っていいよ」
「絶対お断りですッ」
 そう言ってぷいっとそっぽを向くシンに、笑顔だったキラは少し拗ねたような表情をした。
 シンはすぐ正面に向き直り、その表情を見ないようにする。
「というか、オレやることあるんで」
 借りた雑誌を読むだけだけど。
 それを聞いたキラは、何を思いついたのか再び笑顔になってゆっくりとシンに近づいた。思わずビクリとしたシンの手を取って自分の口元に寄せると、
「ぇーそうかぁ……じゃあ、ちゅーしたら行ってもいいよ」
「ちょ、え、どうしてそうなるでありますか…」
 慌てるシンの瞳を見上げながら指先にそっと口付けた。ぞわりとしたシンが手を引っ込めようとするが、それを強く握って引き止める。
「しないなら、僕の部屋で膝の上に座ってもらうよ」
「だから!どうしてそうなるんだよ!?」
 シンは空いてる手で拳を作って見せ付けたが、キラの妙に色のついた煽るような瞳に見上げられ、ぞくっとしたものを感じて勢いを失った。
「ほらー、するの?しないのー?」
「な、何勝手に進めて…!てか、こんな通路で何言ってんすかっ」
「大丈夫だよ、あっちでさっきシーブックくんとザビーネさんもちゅーしてたから」
 ちなみに、ザビーネがシーブックの隙をついて勝手にキスをしたのが正解。
「あぁ…またキンケドゥさんにボコられてんだろうなぁ、ザビーネさん…」
 当然である。
 こういうとき、シーブックには守ってくれるキンケドゥがいる。が、自分にはそういう存在が思い当たらない。アムロあたりがたまたま通りかかれば、見かねて止めに来てくれるかもしれないが。
 そんなことを考えていると手を強く引かれて、キラの胸に倒れ掛かってしまった。
「ぅわ…っと」
「早く決めないと、このまま持ち帰って出撃できないようにしちゃうよー」
「ぃ…ッ!」
 キラはシンの顎の下からうなじまで撫でるように手を滑らせ、くすぐったさに固く目をつむるその様子をカワイイナと思った。思わず耳元に口を近づけて、「ほら」ともう一度ささやく。
「ひゃわわ…!ちょ、も、勘弁してくれよ…!」
「あと12秒だよー」
 なんでそんな半端なんだよ。内心ではそう思っても、口に出してつっこむ余裕がないシン。目を閉じて小さく震えながら「どうしようどうしよう」と空回る頭で糸口を探していると、楽しそうなキラの声でカウントダウンが始まる。焦りから、脳内は余計にぐちゃぐちゃになる一方で、
「ごー、よーん、さーーん…」
 そんなキラの声が一際大きく耳に響く。
 そして。
「にーいちぜろ!」
「最後早ッッ」
 なんの条件反射なのか、そこはしっかりつっこめたシン。
「今のおかしいだろ!?なんでラスト二秒だけそんな高速なんだよ!」
「えへ、待てなくて」
「アンタって人わぁぁぁぁ!!」
「ぁ、そうだ、アスランのとこに行かなきゃいけないんだった」
 シンの叫びは全く聞かず、キラはふと思い出したように手をポンと叩いた。そしてシンからあっさり離れて、愛らしい笑顔を見せながら手を振る。
「じゃ、僕はそろそろ行くねー。またあとでね、シン♪」
「へ?…ぁ、はぁ……」
 展開の速さについていけないシンは、そんな気の抜けた返事しかできなかった。
 その後も、軽い足取りで去っていくあの人を、ただ黙って見送るだけのシンでしたとさ。


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霞夜さんへの相互記念、キラシンでしたー
キラシンというかキラさんがシンさんいじって遊んでるだけというか…
あまりたじたじじゃなかったですね、すみませ、、
書いてる人間は楽しんでました(笑顔)
心を込めて、霞夜さんにお送りいたします!
2012.08.28

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