おはなし

□いちゃいちゃしてるだけ
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 ザビーネの自室に突然の来訪者が現れたが、彼はさほど驚かなかった。それはいつも顔を合わせている人物で、部屋に戻る直前まで言葉を交わしていただけでなく、最後には唇を重ねた仲だ。

「いょっす、ザビーネ」
「キンケドゥ…」

 来訪者はいつものように笑い掛けてきて、そしていつものようになんの断りもなく部屋に入ってくる。
 しかしザビーネは特に気にもせず、本当にコイツは笑うと幼く見えるな、などと思いながら、奥のベッドに直行するキンケドゥを横目で追う。何か用かと問えば、暇だからサーとだけ返ってきた。
 人の気配が離れて自動で閉まった扉を確認してから、ザビーネも奥へと向かった。
 ベッドの傍まで来たキンケドゥは、そこに腰掛けるかと思いきや近くの机を物色し始めた。ザビーネの私物は少なく、本が数冊出てきたがどれも活字が詰まった政治や思想やといった小難しいものばかり。
 本を見つけたキンケドゥが無関心にそれを脇にどかすのはいつものことで、ザビーネは小さく息を吐いてベッドに腰掛けた。

「おもしろいもんないなぁ」

 勝手に人の机を荒らしながら勝手なことを言うのもいつものことで。
 そんな勝手なキンケドゥの姿を見ていると、不意に振り向いたので目が合った。卓上荒らしに飽きたのかと呆れて瞳を閉じれば、軽い衝撃を感じてすぐに瞼を上げた。
 ザビーネはまた小さなため息を吐いて、抱きついてきたキンケドゥの背に片腕を回してそっと撫でる。

「…………」

 キンケドゥが何も言わないので、会話は始まらない。
 そのうち落ち着いてしまったキンケドゥから寝息のようなものが聞こえて、ザビーネは「おい…」と小さく声をかけた。しかし返事がない。
 ちょうどベッドの上ではあるからどかしても問題はないのだが、こうして甘えてくることに嫌な気はしないので少し考えてしまう。ただこのままでは動くに動けないわけで。
 退屈してきたザビーネは、あいている手を伸ばしてキンケドゥが荒らした跡地から適当に本を取った。表紙を見ればすでに読み終わったものだったが、一時の退屈しのぎには関係ないだろう。
 しかし、ザビーネがページをめくって活字に視線を走らせ始めると、

「…おい、なに空いた手で本なんか読んでんだよ」

 耳元から不機嫌そうな声が。寝息だったはずの息遣いが、しっかり覚醒している。
 ザビーネはハッキリとため息をつくと、音を立てて本を閉じた。

「では、この空いた手をどうしろと?」
「俺を抱きしめればいいだろ」

 キンケドゥが即答して楽しそうに笑ったから、ザビーネは相手に顔が見えないのをよしとして緩んだ頬をそのままにした。そして「ほらー早くー」と急かすキンケドゥの腰に空いていた手を添えて、ゆったりと抱き寄せる。
 キンケドゥの表情は見えないが、満足そうに微笑んだような気がして、ザビーネはそっと目を閉じた。



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わがままななうさん。
たまには甘ったるい夫婦で。

短すぎるんで無駄な行稼ぎに改行しまくってみたり。
2012.09.15

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