おはなし
□いちゃいちゃしてるだけ2
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買い出しの帰り。
休憩がてら、茶でもしばくかと喫茶店に入ったキンケドゥとザビーネ。小さな丸いテーブルを挟んで座った二人は、抱えていた大きな袋を床に置いて一息ついた。
「あーー重かったー」
キンケドゥがそう言いながら自分の肩を揉みほぐし始めると、ザビーネも疲れたようにフゥと短く息を吐いてメニューを開いた。開いたところで自分は珈琲一択なので、首を傾げてセルフ肩揉みをしている相棒に向ける。
キンケドゥは己の肩を揉みしだきつつ、「んー」と小さく唸りながら品名を眺めた。一通り視線を走らせた後、何を思い付いたのか相棒の左目をじっと見つめてニヤリと笑んだ。
「…決まったのか?」
ザビーネに問われたキンケドゥは、
「何にすると思う?」
どこか楽しげにそう返した。
思わず短いため息が漏れたザビーネは、少しだけ考えた。当てれば何かしてもらえるのだろうか…否、当たるわけがない。
答えはすぐに出た。
「コーヒー」
「じゃあ紅茶にする」
ほらな。
例え当てていたとしても、別のものに変えられるだろう。
時折こういう子供じみたことをしてくるのは今に始まったことではない。
しかも我ながら呆れることに、このくだらない天の邪鬼を見せて楽しそうに笑う目の前の男を、どうしようもなく愛しく思うのだ。
キンケドゥが店員を呼ぶ為に上げた手を取ると、ザビーネはそれを自分の口元に寄せた。そのまま、目を丸くしているキンケドゥの指先にそっと口付けて、静かに唇を離す。
「……だからぁ、そういうキザなことしないでくれって」
「なぜだ?」
「…反応に困る」
困った表情で視線を外したキンケドゥの頬は、ほんのりと朱色に染まっていた。
…本当にこの男は。
年月を幾重にも積んで心身共に成長しているとはいえ、この愛らしさは出会ったあの頃と全く変わらない。
あどけなく笑えば十代の若者らしさが溢れ、しかしそのあどけない肌を優しく撫でれば、子供とは思えない濃密な色香を放つ。
あれに何度酔い潰されたことか…。
もちろん、それは今も同じで――
「おいっ。何ニヤついてんだよ」
不機嫌そうな声に、現実へと連れ戻される。
はたと目前を見れば、自分を置いて勝手に旅立っていたザビーネを不満げに睨み付けるキンケドゥと目が合った。
ザビーネはフッと意地悪く微笑すると、
「なに、昔を思い出していただけだ」
そう言って、掴んでいたキンケドゥの手をそっと机に置いた。
「なんだよ、昔って。何を思い出してたんだ?教えろ、なんか気持ち悪いから」
キンケドゥは自由になった手を引っ込めて、ザビーネに口付けられた箇所を無意識に撫でた。それは大切なものを守るような、また、触れられた箇所を大事にするような優しさで、ザビーネをひどく煽った。
ザビーネは思わず口角を上げると、
「あとでな」
そう言って喉の奥で笑った。
おもしろくなさそうにムスッと口を尖らせるキンケドゥ。そこもまた愛らしく愛しいと盲目なことを思ったザビーネがまたニヤつけば、いよいよキンケドゥは身を乗り出して眼帯ごと睨み付けた。
「もったいぶるなよ」
ザビーネはその鋭い視線を受け流し、甘さを含んだ微笑で応えながら目の前の美味しそうな頬をそっと指の背でなぞる。
「焦るな。たっぷりと教えてやるさ……ベッドでな」
「ッ…!!」
意味を悟ったキンケドゥが顔を赤くして背もたれまで身を引いたのはとても早かったという。
そして。
「あのぉ…ご注文はよろしいのでしょうか…?」
キンケドゥに呼ばれた店員が、あまりの二人の世界ぶりに困り果てるのはお約束といったところだろうか。
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一択とか言ったけど、ザビーネは普通にお紅茶も飲むと思います。
ナウさん日頃はバイオレンスだけど、ザビキン夫婦は普通に萌えると思います。
2013.04.12