おはなし

□浴衣でザビシー
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 少し湿気を感じる生暖かい空気に、じんわりと汗がわいてくる。
 シーブックはもう何度目かわからない首元を拭う動作に、嫌気を感じて目を細めた。ちなみに、さっきから尻ばかり撫でてくるザビーネの不埒な動作は、つっこむのも面倒になってきたので諦めていたり。
 そっと横目にザビーネを見上げれば、その端正な横顔が視界に入る。冷静沈着な彼はこの暑さの中、着なれていないであろう浴衣に身を包みながらも、涼しい表情で下駄をカラリコロリと鳴らしている。突然出された浴衣をさらりと着こなし、背筋をまっすぐに伸ばして歩く姿は、女性でなくても見惚れてしまう。
 シーブックも思わず息を止めて彼に見入った…が、先程から自分の尻に添えられた手の残念さにすぐため息が出た。
「なぁ…そろそろ人目のあるとこに出るからさぁ…」
 言われたザビーネは、しかし手の動きは止めず、
「フム、では人目の無いところに行くか」
 至極普通かつ真面目かつ当たり前のように言うものだから、
「そういう問題じゃ」
 ナイダロウと続くシーブックの言葉が呆れたため息に化けてしまった。
「もう、いい加減にシロっ」
 歩きながらもザビーネの不埒な手を捕まえて、尻から遠ざける。そして彼の不服そうな目を睨み上げ、
「…ほら、これでいいだろ」
 捕まえたその手をそっと握った。
「……………」
 シーブックから手を繋いでくるという予想外の事態に、ザビーネは一瞬思考が真っ白になった。すぐに我に返ったが、シーブックの頬が少し赤く染まり、照れ隠しに睨んでいる青緑の瞳にまた思考をまっさらにされる。
 なんだこの愛らしい生き物は。
 再び我を取り戻したザビーネは、繋がった手を口元に運んでシーブックの指先に軽く口付けた。驚いて一瞬強張った指先をそっと下ろし、先程よりも赤みを増した頬を見つめてザビーネは微笑んだ。
「…どうせなら指と指を絡ませたいところだが…」
「振りほどくよ」
「まぁ待て早まるなこのままでよいから」
 これでもかなり折れた方なのに、いわゆる恋人繋ぎをさらに求めてくる金髪眼帯貴族を半目で睨んでやると、相手は握る手に力を込めてきた。ザビーネの表情は涼しいものだが、いつもゆったりと話す彼にしては早口めにしかも一息で言っちゃってるあたり、珍しく必死なようだ。
「もう…」
 シーブックは口を尖らせつつも、こんなことで嬉しそうに口元を緩めるザビーネに自分も妙な喜びを感じていた。気温は参るほどの暑さだが、握る手から伝わるザビーネのあたたかさは正直安心する。
 絶対言ってやらないけど。
 シーブックは胸の奥でそう呟き、無意識に微笑んで正面に向きなおった。

 二人で下駄をカラコロ言わせながらゆっくりと歩き、時折他愛もない会話をする。
 縁日では最初に何を食べようかとか、知り合いはいるかなとか、金魚すくいを久しぶりにやりたいけど金魚はいらないんだよネとか。

「りんご飴あるかなー」
「地域によってはないからな」
「僕がいたコロニーには無かったなぁ」
「フロンティアIにも無かったな」
「地球は色々あっていいな〜」
「そうだな」

 平和だなぁ…シーブックは思わずザビーネに寄って肩と肩をくっつけた。
「………」
 ザビーネはチラとだけその青い髪を見てから、フッと微笑して前を向いた。
 そうしてしばらく歩くと、出店で賑わい楽しそうに笑い合う人々の声が聞こえてくる。
「あー、お腹すいてきたから最初は焼きそばがいいかな〜」
 そう言って頭を上げたシーブックは空腹からか早足になり、ザビーネの手を引いて、やがてはその人混みの中へと入っていった。



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山もなければ落ちもない。

夏は過ぎてしまったけれど、お祭りネタ。やりたかったの!
縁日では色んなカップルが楽しんでたりします。
なんていうか、
手まで繋いだんなら恋人繋ぎしたって大差ないだろうに
と自分つっこみ。。
2013.09.09

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