おはなし

□新聞配達話
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 シーブックはエア・グライダーという趣味を持っていた。その作業を始めると時間を忘れるほど熱中する。勉強は不得意だが、趣味のことならどんな複雑な計算も難解な言語も解読した。
 組み立てて飛ばすたびにあのパーツこのパーツが欲しくなるので、まだ中学生のシーブックには資金という大きな壁があった。
 シーブックは資金を得る為に、早朝の新聞配達と牛乳配達のアルバイトをしていた。今朝も早くから大量の新聞を抱えて、自分の住むタウンとは離れた区域を自転車で走り回る。あのパーツを買ったら何を最初に作ろうか、次に必要になりそうなものはなんだろうか…配達しながら、頭の中はエア・グライダーのことでいっぱいだった。
 しかし、とあるお宅の前に来るといつも思考が一瞬そちらに向いてしまう。
「デカイ家だなぁ…」
 シーブックが担当する区域で1、2を争う豪邸だ。きっとお偉いさんが住んでいるのだろう。貴族というやつか。そこは柵で囲まれていて、唯一の入り口である門と家との間には小さな庭が展開されている。
 シーブックは配達のときにしかこの区域に来ないので、噂話も何も聞いたことがない。こんな立派な家で暮らしているのはどんな人たちなんだろう…よくそんなことを考えながら、大きな門の横に取り付けられているポストへ新聞を押し込んでいた。
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