おはなし

□眼帯ネタ・ケース1
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 ザビーネは右目にアイパッチをしているから、右側から忍び寄られたら反応が遅れたりするのだろうか?
 シーブックは作業をしていた手を止めて、椅子に座って黙々と本を読んでいる同室者を見たときに、ふとそんなことを思った。
 ちょうどザビーネの斜め後ろの位置にいるシーブックは、工具を静かに床に置いて、そろりと立ち上がる。旧クロスボーン・バンガードの隊長を務めていたこともある彼なら、シーブックが立ち上がった気配などすでに察してそうだが、特に気にしなかったのか、変わらず本を読み続けている。トイレか風呂にでも行くのかと思ったのだろう。
 シーブックはしめしめ、とザビーネの背後に忍び寄ると、右肩の上からにゅっと顔を出して、素早くその右頬に軽く口付けた。
「!?」
 ザビーネはシーブックが背後に立った時点で違和感に顔を上げようとはしたが、少し間に合わなかったようだ。しかし間に合わなくて良かったと、本当に心の底から実感した。
 ポーカーフェイスの下に隠されたザビーネの歓喜などいざ知らず、シーブックは仕掛けが成功したことの愉快さにハシャいでいた。
「ぉーいけたいけた!やっぱ右側は隙だらけなんだな、ザビーネ!」
 ザビーネの右肩に右手を、左肩に左手を乗せて、先ほど隙だらけと言った右側から少しだけ身を乗り出す。
 ザビーネはまさかこんな可愛いことをされるとは思ってもみなかったので、シーブックが喜んで肩を叩いてる間も少々固まっていた。
「あっははは!今の戦場だったらアンタ死んでるぜ?」
「…そうだな。注意していたつもりだったが、このザマだ。以後はより気をつけることにしよう」
「あぁ!ぜひそうしてくれよなっ」
 シーブックは偉そうに言って、さて風呂にでも入るかとザビーネの肩から手を離した。そしてその手をザビーネに掴まれて。
「?」
 ザビーネは一瞬戸惑ったシーブックの隙をついて思い切り引き寄せ、その勢いで軽く抱き上げる。
「ぅおあ!?」
 驚いたシーブックが声をあげる。彼が状況を把握する前に、ザビーネはそばにある自分のベッドにおろしてすぐに押さえ付けた。
 そして「げっ」という表情を見下ろしながら、
「さてと、それでは仕返しさせてもらおうか」
 ザビーネは薄く笑った。
「ちょ、待っ…!」
 シーブックが言い切る前にその口を強引なキスでふさぐ。荒っぽく舌を絡めると、もちろんシーブックは抵抗してくるが、そんなの気にしない。
 しばらくすると抵抗する力が緩んできたので、ザビーネは快感に流され始めたのかと思った。
 シーブックはというと、普段は多少強引でも事は優しく進めるザビーネがいつになく荒々しいので、怒っているのではないかと不安になっていた。少しからかうだけのつもりだったが、もしかすると彼のプライドをとても傷付けたのかもしれない。そう思うと急に申し訳ない気持ちが湧いてきて、抵抗することに気が引けてきてしまったのだ。
 シーブックの申し訳ないオーラを感じたザビーネは、なるほどそういうことかと納得した。全く怒ってなどいないし、むしろ頬とはいえシーブックからキスをしてくれたことは、非常〜〜〜に嬉しい。眼帯してて良かったと思った。
 しかし、この先に進むのに利用できそうなので、あえて真実は告げない。「怒ってる?」と聞かれたときは素直に答えるつもりではいるが。
 何度も何度もキスを落としながら、片手間にシーブックの服のボタンを外していく。すべて外して胸元をはだけさせたときにシーブックの顔を伺ってみると、怒らせたと勘違いして不安がっている表情がそこにあった。
 …うむ、心苦しい。ザビーネはシーブックの頭をそっと撫でてから優しく口付けることで、怒ってはいないことを伝えた。
 ちゃんと伝わったかは謎だが、シーブックは目を丸くした後、ほっとしたように息をひとつ吐いた。
 ザビーネも一安心すると、シーブックの頭を撫でていた手をその首に滑らせて、首筋から肩にかけて指先で緩やかになぞった。
「…ッ!」
 シーブックはゾクリとした感覚に身を震わせた。
「シーブック…」
 ザビーネは愛しそうにその名を呼びながら、シーブックの首筋に唇を寄せていくつか印をつける。そして鎖骨に口付け、胸元に口付け、そのたびにシーブックがピクリとする反応を楽しみながら、ゆっくりと舌を這わせた。
「んん…っ!」
 シーブックから甘い吐息が零れる。
「こうしてお前にふれるのは久しぶりな気がするな」
 貴重な機会をじっくり味わうように、ふれている体のあちこちにキスを落とした。
 シーブックはくすぐったさに少し身をよじりながら、
「久しぶりって、三日前もさわったじゃないか!」
 そんなつっこみを入れてから、三日前のことを思い出して恥ずかしさに顔を赤らめた。
「み、三日…!?」
 ザビーネは衝撃を受けたように目を見開いて、
「三日もお前にふれてなかったというのか…!」
 悔しさに肩を震わせた。
 シーブックは呆れて何も言うことが思い付かず、悔しがるザビーネの表情を冷ややかに見つめた。
「私としたことが…なんたる不覚」
「いやいや、ケツは毎日さわってるだろ」
 それくらいの言葉しか出てこない。
 しかしザビーネはつっこみを無視して決意を固めた顔を上げると、急にキスをして、しかも深く口付ける。キスをしながら、シーブックが部屋着としてよく着用している紺のズボンに手を滑り入れた。
「!!…ちょッ!?」
 さっきまではあんなにじんわりと進めていたのに。シーブックは急な展開に思わずザビーネの肩を押して抵抗した。
「せっかくの貴重な機会…のんびりしてはおれん」
「いや、意味わかんな…ぅあ!」
 急な刺激に語尾が切れた。
「ん…ちょ、っと待っ…!」
「待てん」
「いや、待て、よ…ぁあ!」
 手慣れたザビーネの指が与えてくる刺激に、しっかりとしゃべらせてもらえない。しかも言動とは裏腹に身体は素直なもので、ザビーネの手を少しずつ濡らしていく。
(悔しい…腹立つ…けど、うまいんだよなぁ、ザビーネ…)
 なんだかんだで、いつもこうして流されている。
 シーブックはせめて声は出すまいと固く口を結んでいたら、そのうちうつ伏せにひっくり返された。目の前にザビーネが日頃ご愛用している枕があったので、自分の口元まで引き寄せておく。
「やはり少なくとも二日に一度はふれておきたいところだな」
 おきたくないよ。シーブックはそうつっこみたかったが、たぶんまともに声が出ないと思ったのでやめた。ここまできたら、もうこの眼帯変態野郎の進撃を止めることはかなり難しい。
 内心で「あーもうこの変態」と付け足し、シーブックは諦めて枕を噛んで声を押し殺して、与えられる甘い刺激に身を委ねた。

 このあと、ザビーネが「三日分」とか無茶ぶりをしてシーブックにキレられたのは、言うまでもなかった。



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ザビさんはお風呂に入るときも
アイパッチ着用してるんかしら、
とかどうでもいいことを思いました。
2011.01.16

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