イナイレ夢短編

□最後の我が儘。
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※夫婦設定
※戦争中


「ごめん、路唯」

久しぶりに聞いた、晴矢さんの…切なくなるくらい、沈んだ声。

嫌な汗が、背中を伝う。
ドクン、と怖いくらいの胸騒ぎがした。

「晴矢さん?」
「俺、また……」

言葉を濁した、私の最愛の人。
それだけで、彼の言わんとすることは分かってしまった。

「……戦争、ですか?」
「……ごめん」

ああ、そんな顔をしないでください。
晴矢さんは悪くないのに。
悪いのは、戦争なんてものを作り出した、この世界なのだから。

「…そうですか」

私は目を伏せて、それだけを返す。
こんなに申し訳なさそうな顔をしている彼を、もうこれ以上困らせたくない。

だから、溢れ出そうになる不安も、全部胸の内に押し止めて。
私は…精一杯の笑顔を見せた。

「…っ、路唯…!」

突然、晴矢さんの力強い腕に身体を抱き寄せられた。

そして唐突のことに驚く暇もなく、私には深く、甘い口付けが施される。

「……っん、…ぅ……」

舌を絡まされると、指先まで痺れが走った。唾液の混じり会う音が部屋に響く。

ふと目を開けると、私を見つめる綺麗な金の瞳が、悲しみに揺らいでいた。

そんな彼の弱さを目の当たりにすると、どうしようもなく…溢れんばかりの愛しさが込み上げてくる。

この時間がずっと続いてくれれば…いや、もういっそ…このまま時が止まってしまえばいいのに。

そんな馬鹿げた考えが頭に浮かぶ。

そんなこと、出来るはずがないのに。


「……好き、…大好きだ、路唯」

晴矢さんは私と重ねていた口を今度は私の耳元に持ってきて、今にも消え入りそうな声でそう言った。

じんわりと暖かいその言葉に、心配をかけまいと抑えていた涙が頬を伝う。

ああ、この人は、どこまで私を弱くしてしまえば気が済むのだろう。


愛しくて愛しくて仕方ない。

貴方がいれば私は、何もいらない。
地位も名誉も、何も。

私の生きる意味は、貴方です。

だからもう、どこにも行かないで。

そばにいてください、晴矢さん。


…だけど、こんな我が儘、晴矢さんに迷惑をかけるだけだと分かっているから。

私は感情を押し殺す。


「私も、誰より晴矢さんが大好きです」

ただ、何一つ偽りのない本心だけを。
涙を拭って、今の私にできる最高の笑顔で、彼に伝えた。


そして、ここからは全てが嘘。
全て…本当の気持ちとは裏腹の言葉。

「…私のことは心配ありません。晴矢さんは晴矢さんの役目を果たしてください」


嫌だ。
役目なんて果たさなくていい。
ここで一緒に過ごしていたい。


「大丈夫です。私、信じていますから。晴矢さんは、無事で帰ってくるって」


違う。
怖くて怖くて…不安で仕方ない。
信じたいけれど、どうしても『戦争』というものの恐ろしさが邪魔をする。


「絶対に、私を一人にしないって」


そう、思いたいだけ。
自分への言い聞かせでしかない。

ごめんなさい、晴矢さん。
私は貴方を信じることも出来ないような、最低な女です。

自分の気持ちに嘘をつくことでしか自分を保てないような、弱虫な人間です。


「だから…」
「当たり前だっつの」

今まで黙っていた彼が、急に私の言葉を遮って声をあげる。

真っ直ぐな瞳が、私を映した。


「俺は生きる。必ず、ここに帰ってくる」


そう言って優しく微笑んだ晴矢さんに、私は嘘で塗り固めた自分を突き通すことも、本当の自分を隠し通すこともできなかった。







神様、どうか私から彼を奪わないで。

これが、人生最後の我が儘です。
私と晴矢さんを、幸せにしてください。



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