イナイレ夢短編
□おかえりなさい!
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『♪願うことさえ許されない、世界なのかな…たったひとつの……』
ふと口ずさむ、晴矢さんの大好きな曲。
この歌が、私の声が、彼の元まで届けばいいのに。
(…けれど今これを歌うのは、少し縁起が悪いですね…。冗談でも笑えませんよ)
from Y to Y。
…立派な失恋ソングである。
そういえば、これが失恋ソングだと知ったときの彼の慌てっぷりは凄まじかった。
焦りに焦る青年の姿を思い出し、思わず吹き出してしまう。
…こうして最近のことのように鮮明に思い出せるその情景も、もう随分と前の話。
私の親がまだ、私たちの交際に反対していた頃の話なのだ。
「あー、あー?」
思い出に耽る私に手を伸ばしてきた、私の腕の中の子供。
晴矢さんと私の、大切な子供。
(……晴矢さん……)
もう、一年も会っていない。
戦争に行ったまま、戻ってこない彼。
絶対に生きている。それは、それだけは、ずっと信じているけれど。
「まーまー?」
父の存在も知らず、育っていく幼い子供。
何の疑いもなく私だけを信じるその瞳に、私は苦笑を返すことしかできない。
晴矢さん。本当に…貴方はいつ帰って来てくださるのですか。
行ってきますと貴方がそう言ったっきり、まだ私は貴方にお帰りなさいを言えていないんです。
私もこの子も、ずっと待っています。
だから、絶対に無事で。
笑顔で、帰って来てください。
ああ神様、そう思うことも強欲でしょうか。そう願うことは、我が儘でしょうか。
ぽた、と、私の頬を伝って落ちた涙が床に染みをつくる。
それを不思議そうに見つめる、愛しい愛しい私たちの子供。
どうして、どうして。
神様は私たちに意地悪をするのでしょう。
今もずっと、不安で仕方がない。
早く。早く、帰って来てください。
晴矢さん、晴矢さん、晴矢さん……!!
何度も何度も彼の名を心の内で唱えた、そのとき。
「路唯っ!!」
バタンッ、と、ドアの音がした。
同時に聞こえてきた、ずっとずっと待ちわびていた声。私を呼ぶ、優しい声。
間違える、はずがない。
この、声は。
「晴矢…さん……」
振り返った先には、息を切らして無理に微笑む、一年前と何ら変わりのない、大好きな彼の姿が確かにあった。
「…遅くなって、ごめん」
油断していた私は、不覚にも緊張を解いて泣いてしまった。
「遅い、ですよ…!」
「……ごめん」
「…良かっ……無事で、良かった…っ!」
偽りのない本心。
だってそれ以外、何を望むの?
「んっ…う…!」
止めどなく溢れてくる涙が、言いたい言葉を言わせてくれない。
まだ。まだ言っていない。
だから少しだけ止まって、涙。
「……っ、お帰りなさい…晴矢さん…!」
ああ、やっと言えた。
心からの、お帰りなさい。
「……ただいま」
少し照れ臭そうな晴矢さんのただいまが、泣きじゃくる私を包み込んだ。
「……それ、子供…?誰の…」
「…私たちのですよ」
「………は?」
「……私と晴矢さんの子供です。だから…待ってたんです」
「へっ?」
「この子の名前。二人で、付けましょう」
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