イナイレ中編小説

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「…ぷはっ」


暗いキッチンで一人、冷蔵庫の水を一気飲みする。今は夜中の二時。普通ならもう寝ている時間だけど、なんだか眠れない。


今日は色々なことがありすぎて疲れたはずなのに、どうしてこんなにも目が冴えているのだろうか…。


でも、久しぶりだったかもしれない。
あんなに皆が団欒してて、食事中も絶えず喋り続けて…というか、夕食を皆揃って食べることも珍しいのに。

それもやっぱり、路唯の影響。
彼女には人を惹き付ける魅力があるのだ。

皆、路唯のことが好きで。
路唯も、皆のことが大好きで。

それが少し悔しい、とか思ってしまうけれど、俺は皆に優しい彼女だからこそ大好……じゃない何言ってるんだ俺!!

……と、とにかく。

……彼女の存在は、俺たちにとって…かけがえのないものだ。

本当は、一人暮らしなんか止めて今すぐこっちに戻ってきてほしい。
それが、お日さま園の子供たちの本心。

でも、そんなこと言ったら路唯は困るだろうから、皆…何も言わない。

けれどやっぱり、どれだけ感情を押し殺したとしても、寂しいものは寂しいのだ。

(…そう思うことも、我が儘…なのかな)

毎日のように会えることが、当たり前だと思っていた。…そう、ほんの数年前まで。

今この瞬間は永遠じゃないんだって、…いつかは壊れてしまうんだって、あの日…初めて知った。


そして、俺の中にある路唯への想いが『恋』だと気付いたのは、彼女が出ていった後のことだった。

…あの時はもう、ちょっとした鬱期に入って泣いてたっけ…。…ああ、黒歴史。


「…あれ、ヒロト?」
「へっ!?」


聞き慣れた声に呼ばれて勢いよく振り返ると、そこには俺を悩ませている張本人。


「え、あっ…路唯…!?」
「ヒロトも眠れないの?私もなんだー」

彼女は俺の目の前を通って冷蔵庫に手を伸ばす。え、なにこの状況……二人っきり!?


「いやー、疲れた疲れた。久々だからって喋らせすぎよ、皆。声が渇れたら生きていけないような世界だってのに…」

えっ…ちょっと待って俺、なんて返したらいいの!?か、考える時間くらいくれたって…!

ああああああ、どうしよう!!
な、何か言うべきなんだろうけど…!

ダメだ、言葉が出ない。
ああもうっ、俺の根性なし…!!

「ああそうだ、忘れてた…。ヒロトちょっとこっちおいでー」
「ふぇっ!?」

ま、間抜けな声が出てしまった…!うわ、は、恥ずかしい!

「な、なに…?」

必死に取り繕おうとするけど、既に後の祭りだ。恥ずかしさはどうにもならない。

空回りしすぎ…!!

「もーちょっとこっち、…うん、そこ」
「……?」

なんだろう、その含み笑い…ちょっと不審な感じがするんだけど。

俺がそう考えた途端、路唯の手が俺の頭に乗ってきた。

「なっ…!!」
「んー、よく頑張ったね、ヒロト!みこ姉から聞いたよ、大会の決勝戦で二点も入れちゃったんだって?さっすが私の弟分!」
「う、わっ…!!」

い、痛いって!そんな髪ぐしゃぐしゃにしないでよ!
……とか思うけど、実際の感情を整理してみるとやっぱり『痛い』より『嬉しい』が勝る。なんて単純なんだろう俺。


「ちょっ、路唯!やめっ…!!」
「よしよし、よくやった!最高だよ!!」

人の話を聞かないのは相変わらずだな、とか頭の片隅で考えてると、ふいに彼女に腕を引き寄せられた。


――その瞬間、俺の思考は停止する。


(…え、…は…?)


え、ちょっと待って、なんか腰に違和感が、っていうか路唯の匂いが、い、いやその前に、顔に…やらかい何かが…!!


「――ッ!!?」


彼女に抱きしめられているという事実に気付いたのは、その数十秒後。


突然の驚喜。


「…ん?ヒロト?ちょっ、えっ、何!?うそ、湯気!?頭から蒸気が…!!」


(……誰のせいだよ!!)

 
 

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