イナイレ夢短編
□恋愛話。
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「たまには、コイバナとかしませんか?」
始まりは、走行中のイナズマキャラバンに響いた音無春奈のこの一言。
コイバナという単語に、キャラバンメンバーはピクリと肩を揺らす。
彼女は女子メンバーのみに言ったつもりなのであろうが、その声はしっかりと男性陣にも伝わっていた。
「い、いきなりどうしたの?」
「時にはこんな時間も必要ですよ!さあ皆さん、心の準備をしてください!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!まだ私は…!」
「じゃーあ、夏未さんから!」
「なっ!?」
反論者の意見も聞き入れずに、春奈は顔を真っ赤にしてあたふたと慌てふためく夏未に話題を振っている。
女性陣が和気藹々と会話を膨らませていく一方、男子メンバー内に会話を持ち出したのは案の定、一之瀬だった。
「ね、俺たちも女子を見習ってさ、コイバナとかしようよ」
「あ、面白そうだね」
彼の言葉に真っ先に賛同を示したのは吹雪。だが他メンバーは各々に反論をする。
「…自由参加でいいだろう。そういう話は、したい奴だけが…」
「ねえ、この中でさ、路唯のこと好きな人ってどれくらい?」
木暮のその一言に一瞬にして頬を火照らす数人は確実だとして、肩がぴくりと揺れた者も、その質問の対応者なのであろう。
つまり、ほぼ全員である。
「いいいいい、いきなり何言い出すんですか!」
「うっしっし、立向居、顔真っ赤だぞ?」
「なっ、そ、それは…!!」
ゆでダコのように真っ赤になる立向居に、木暮は茶化しを入れる。
二人が言い合いを始めて話題が逸れてしまう前にと、また一之瀬が口を開いた。
「実質ほぼ全員だよね、路唯のことが好きなのって」
「後から後から増えていくよね」
「…お前も後から増えた一人だがな」
まるで自分が一番に好きになったかのような吹雪の言い方にツッコミを入れながらも、人のことは言えないところを自重する。
そんな鬼道らしさに苦笑をしながら、今度は珍しく豪炎寺が会話に参戦してきた。
「本人は無自覚に俺たちの恋敵を増やしていくからな」
「無自覚ってとこが問題だよな」
「そうそう、天然って言えば聞こえはいいんだけどさー」
天然とはまた違った魅力がある、と先程から喋りっぱなしの一之瀬が然り気無く持ち出してきた話題に、彼らは応じていく。
「いきなり笑顔になるときが可愛いよな、ギャップっつーか…」
「いきなりっていえば、いきなりよく分からないこと言い出すよね、路唯ちゃんって」
「不思議ちゃんだからなー…」
わいわいと弾む話に、次々と参戦してくるメンバー。同じタイミングで、女性陣側も盛り上がってくる。
果てには瞳子までもをかなり強引に参戦させた彼女たちの会話は続いていた。
「路唯は好きな人とかいないの?」
「…私…?」
搭子の質問に、路唯は小首を傾げる。
話題の矛先が彼女に向いたことなど、自分たちの世界にのめり込んでいる男性陣は全く気付かない。
少女はゆっくりと声を発した。
「…いる。私だけの、王子様……」
「えっ、ええ!?」
「だだだ、誰ですか!?」
予想外の彼女の返事に、春奈たちは驚きと興味を隠せずに聞き返す。
けれど路唯は『…秘密』と小さく呟くだけで、それ以上は喋らない。
「えええ、ヒント!ヒントください!」
「…ヒント…?」
「そうや!ヒントくらいちょうだいな!」
「……ちょっと怠け者さんで、面倒くさがりさんだけど、すごくかっこよくて…優しい人…」
その言葉に半数は首を傾げて更に眉間の皺を深くするばかりだが、秋には直感的に彼女が思い浮かべる人物の見当がついた。
確信を得たわけではないが、多分ほぼ確実に、あの人だろう。
「ね、ねえ路唯ちゃん、それって…」
秋は少女の耳元に、他に聞こえないように囁くように告げる。
すると彼女は少しだけ驚いたように目を見開いて、言った。
「…すごい、秋先輩。どうして分かったの?もしかして、超能力者さん…?」
やっぱり、と秋はにやけそうになる口元を必死に結び付けて、路唯の頭をよしよしと悶えるように激しく撫でる。
疑問符を浮かべる他四名。そんな中瞳子は、ふいっと視線をそっぽ向かせた。
…最後の方が、聞こえてしまった。聞くつもりはなかったのだが、無意識なのか…勝手にそちらに耳が傾いていた。
(……誰だったかしら、真一くんって……)
聞き覚えがあるようなないような名前に、彼女は疑問符を浮かべていた。
(じゃあ、瞳子監督は好きな人とかいないんですか?)
(…今は仕事一筋よ)
(えー、つまんなーい!)