Short&Middle
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「なあ、エマ。今日何の日か知ってるか?」
「何の日って……十一月二十三日だろ。何かあったっけ?」
唐突にウィルヘルムに話を振られたエマヌエルは、首を傾げた。
十一月の二十三日目の日であるということ以外に思い当たることはない。
「あ、極東の島国で勤労感謝の日とか言われてるあれか?」
閃いた! と言わんばかりの目をして言ったエマヌエルに、ウィルヘルムは何故か目に見えて肩を落とした。
「んー、まあそれもあるけどな」
「他に何があんだよ」
「因みに、昨日は何の日だった?」
「『良い夫婦の日』だろ」
俺には関係なかったけどな、とボソリと付け加える。
実際、未婚のエマヌエルには盛大に関わりがなかった。尤も、事実婚に近い関係の女性は一人いたが、彼女とは、『良い夫婦』なんて言葉は当て嵌めるのもおかしい気がする。
「それで行くと、今日は?」
「……あー……」
どうしても答えなければならない流れに、エマヌエルは眉根を寄せた。
昨日の日付のゴロ合わせは、『一・一・二・二』が転じて『良い夫婦』らしい。すると、『一・一・二・三』は。
「……良い兄さん、とか言わねぇよな」
「んにゃ、正解」
ウィルヘルムが満面の笑みでエマヌエルを見る。
「で、何を期待してんだよ」
「いやぁ、日頃の感謝を込めて、今日限定で俺を『兄さん』と呼んでくれても」
「だーれが『良い兄さん』だよ、図々しい」
「なっ! 世界中どこを探しても俺程良い兄さんはいねぇだろっ」
「悪い兄さんの間違いだろ? 大体あんた、その年で『兄さん』って呼んで貰えるとでも思ってる訳?」
かつて研究所で遺伝子をいじくられた弊害から、未だに十代半ばの頃から肉体的に年を取っていないエマヌエルからすれば、順当に年を取って当年三十四歳のウィルヘルムは、確かに『兄さん』というにはおじさんなのだろう。
しかし。
「……いい度胸だな。そういうつもりならこっちにも考えがあるぜ」
「……何だよ」
そこは、ウィルヘルムの地雷だったらしい。
普段より低い音程で這いずった声音に、エマヌエルは気持ち身構える。
「そーゆーこと言う悪い弟君には今後一切俺からのフォローはないと思えっ!」
「なっ、誰がいつお前の弟になったよ! つーか人の足元見やがって!!」
「何を言う。順当な見返りだろ?」
やっぱりこいつは悪い兄さんだ。というか、彼に実の弟がいたら、その弟はさぞかし苦労しただろう。
そんなことを口に出さずに思うエマヌエルと、ウィルヘルムの低レベルな言い争いは、制止する人間がその場にいなかった不運から暫く続いたのだった。
(fin) 初出:2013.11.23. up.2013.11.28.
現実逃避を兼ねて、こつぶに投下した『良い兄さんの日(2013/11/23)』ショートショートです。
初稿のままで手は一切いれていません。
腐の一歩手前に見えなくもないですが、ただの友達です(何)。
ウィルとエマのこういうやり取りって結構書くの好き。というか、ほっとくとこんな具合で勝手にじゃれ合ってくれます。
「な、やっぱりそう思うだろ?」
「だろ? じゃねーよ! 誰がじゃれてるって!?」
「そういうところがじゃれてんだよ」
さて、どっちがどっちでしょうか(笑)。