Short&Middle

□無彩色に一つ、
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 黒い髪、黒いレザージャケット、黒いレザーパンツ。

 そんな中で、瞳だけが異彩を放っているように見えた。

***

「……キレーな瞳だね」

 つい口に乗せると、それが聞こえたのか、漆黒の頭が動く。

 シャギーを入れたようなサイドの髪に埋もれた肌が、やけに白い。
 心惹かれた群青色の瞳が、まっすぐに自分を射た。

「……何か、用?」

 素っ気なく放たれた声音は、少女とも少年ともつかない張りのある声だ。
 切れ長の目元に、通った鼻筋。薄く引き締まった唇。
 伸ばしっ放しの漆黒の髪は、うなじの辺りで緩い三つ編みに編まれ、腰元で毛先が揺れている。

「別に用って訳じゃないんだけど。少し時間ある?」

 口から滑り出た言葉に、自分でも驚いた。

 この歳まで仕事一筋で、同性さえ遊びに誘った事はないというのに。
 これではまるで口説いているようではないか。

「どこの誰だか判らない奴に割いてやる時間ならねぇな。生憎だけど」

 相手は、無表情を少し歪めるようにして肩を窄(すぼ)めた。

「知らない? そこそこ顔も売れてるカメラマンなんだけど」

 こちらも同じようにして肩を竦める。

 何だか、判で付いたようなセリフだ。
 失敗し掛けたナンパの常套句。

「さあな。写真に興味はないもんで」

 食い下がったのが気に入らなかったのだろう。
 歪めた苦笑が無表情に戻る。

「言っとくけど、被写体になってってお誘いならお断りだぜ」

 機先を制された。
 正にそう言おうとしていたのに。

「それは残念。滅多にお目にかかれない逸材なのに」

 相手は無言でもう一つ肩を窄めると、踵(きびす)を返した。
 動作にいちいち隙がない。
 クルリと反回転した身体に従いて、長い黒髪が艶(あで)やかに舞う。

 ああ、また無彩色に戻る。

 黒い髪、黒いレザージャケット、黒いレザーパンツ。

 彼か彼女か結局判然としなかった相手は、背中から見ると真っ黒になる。

 もう一度、こちらを見てはくれないだろうか。


 無彩色に一つ、極上のサファイアのような印象を残した青色とは、それきりだった。

(fin) 脱稿:2011.09.08.

企画サイト『深淵(旧ストロベア)』さんに提出致しました。

な、何とか間に合ったー!

そろそろ書かないとなー、と思いつつ、今回は本編を書くのに勤しんでいたのもあり中々着手出来ず、このお題を見た瞬間のイメージ(=見返り美人エマ)だけが浮かんでは消え、浮かんでは消えするだけでした。

でも、締め切りは延びないものですので、急いでイメージを引き延ばしたらこんな謎掛けみたいな文章があがった次第です。orz

一応自分の中では、ある日ふと町中(田舎街)の片隅で、エマとカメラマン(女性)が行きずったイメージ。
やっぱり最後は無理矢理お題に合わせたというか、……たまたま合った。ラッキー(マテ)。しかし、『無彩色』の意味をはき違えている気もしないでもない……(遠い目)


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