Short&Middle
□He's first love token
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彼女が自分を庇い通して死んでいったと思うと、エマヌエルは悲しみと苛立ちの中に少し嬉しさを覚えるような複雑な気分で拳を握り締めた。
喪失感で空になっていた身体の奥から沸いて来るのは、怒りとも憎しみともつかない言い知れぬ感情。
引き金を引いたのは、自分だ。だから、本来なら自分も今この瞬間のうのうと生きている権利などない。
けれども、組織にも彼女の死の責任がない訳ではない。
(……死ぬのは、いつだって出来る)
本当は、すぐにでもこの場で自爆してしまいたかった。
だが、それでは犬死にだ。
彼女も――そして、自分も。
相手を思惑通りに喜ばせてやるなど、冗談ではない。
(オレが死ぬ時は――てめぇらが死ぬ時だ)
その時が来たら、絶対に自分一人では逝かない。
組織も研究所も、全てを道連れにしてやる。
頼んでもいないのに彼らに与えられた、この――『能力』で。
伏せていた瞼を上げて、エマヌエルは空(くう)を睨んだ。
深い青色の瞳には、憎悪と怒り、後悔と悲しみが複雑に入り混じり剣呑な光りを帯びている。
ウィルヘルムは、あたかも自分が睨まれたかのように微かに身を震わせたが、何も言わなかった。
行こう、と静かに促されて、惰性で返事をしながら、エマヌエルは、もう一度彼女を埋葬した場所を振り返る。
しゃがみ込んで、別れを惜しむようにそっと地面を撫でた。俯いて目を伏せて、エマヌエルは初めて思った。
愛していたのかも知れない、と。
母親へのそれとは違う慕情は、確かに――――、
恋、だったのかも知れない。
(fin)
ブログのバトンだかお題だかに投稿させて頂いたもので、ほぼ第一稿そのまんまです。
何となく私の中では、エマは初恋の女性に死なれるイメージがあります(それも少なからず自分といた事も原因に含まれる死に方で)。
でも、彼女が生きてる間には恋を恋と自覚出来ないままで、亡くして初めて気付くパターン。
で、以後恋愛臆病になっちゃうと(……イジメ?)。