Short&Middle
□四月バカと知らない彼女
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「……何笑ってんの」
「別に」
いつの間にかこちらを向いていた彼女に見咎められて、エマヌエルはもう一度肩を竦めた。
ヴァルカは、そんなエマヌエルを胡乱な目付きで睨むように見据えている。『本当に?』とでも言いたげな顔だ。
「ホントに何でもねぇよ」
「嘘」
「何で嘘だなんてあんたに解るんだよ」
「だって、今日エイプリル・フールだもん」
いつ騙されるか判ったものではない。
そう言わんばかりの拗ねたような口調に、エマヌエルは遂に吹き出した。張り込み中だったので、声量は抑えているつもりだが、爆笑に発展しないようにするのにひどく苦労する。
勿論、それを見たヴァルカの機嫌は順調に下降の一途だ。
「何がおかしいのよ」
「……ッ、や、別にっ……」
クスクスと肩を震わせながら、半ば腹を抱える。彼女にこんな一面があったなんて、今まで全く知らなかった。四月バカでもないのに、それこそ騙された気分だ。不思議と不快ではないけれど、もっと揶揄ってみたくなるなどとと告げれば、本当に銃弾が急所狙いで飛来しそうだ。
「……エマぁ?」
いつまで経っても笑いの発作が収まらないエマヌエルに、ヴァルカの声が低く地を這いずる。このままではターゲットよりも先に半殺しにされ兼ねない。
身の危険を感じたエマヌエルは、深呼吸することで、無理矢理笑いを押さえ込んだ。
「や、ホントに何でもねぇからっ……」
ククク、と笑いの残滓を引きずりながら目尻に滲んだ涙を拭う。――こんなに、心の底から笑いに身を捩ったのは、もう何年振りだろうか。
「今日は何言われても信じられないから、明日白状してよね」
すっかりむくれてしまったヴァルカは、『何でもない』を繰り返すエマヌエルから、ターゲットの潜むアパート入り口へ視線を戻した。
(……明日……って言われてもな……)
本当に何にも考えてないし、企んでもいない。
ただ、あんたが――
そこまで考えて、エマヌエルはハタとその先を明確に言葉にすることを急停止した。
滲んだ涙を拭う為に目尻にあった手を口元へ移動する。心なしか、顔が熱い。
(……何考えてんだ、オレ)
四月バカって、ただバカになる日だったっけ。
見当違いなことを考え始めたエマヌエルの思考の中から、一時『報復』という単語が消えたことを、誰も知る由もなかった。
(fin)up.2012.04.01.
何か上げなきゃ、何か更新しなきゃ。
そんなことを考えていて、ふと今日がエイプリル・フールだということに思い当たりました。
オリジナルではイベントに即した短編を書いたことがなかったのですが、エイプリル・フールだと気付いた途端、冒頭の二人の会話が降って来たので、今日中に上げようと頑張りました。
Episode0(現Episode1です。その内タイトルだけ差し替え予定)後編後のある日の話。
本当は攻めモードに入ったエマがヴァルカにちゅーするとこまで行く予定だったのですが、そっちに持っていこうとしても動いてくれなかったので、キャラに丸投げしたら、恋心自覚寸前の初々しい話になりました(笑)。
急いで仕上げたので、後々見たらおかしい箇所があるかも判りませんが、読了、ありがとうございました。