Short&Middle

□四月バカと知らない彼女
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「ねぇ、エマ。エイプリル・フールって知ってる?」
「エイプリル・フール?」

 それは、雑居ビル街の路地裏で、張り込みをしている最中のことだった。

 張り込みと言っても、実際に仕事をしているのはヴァルカで、エマヌエルはその付き合いだ。
 勿論、ただCCA(ダブル・シー・エー)の仕事をしているだけなら付き合わない。エマヌエルが興味があるのは、ゴンサレス研究所やノワールの残党を狩ることだけだ。だから、少しでも組織の臭いがする仕事には進んで協力している。不本意だが、生活の為の報酬も、CUIOからいくらかは支払われる。報復と生活費、両方解決できてエマヌエルにも得なのだ。

 今回は、ノワールの生き残りが、ファンドルを取り引きする現場を押さえて頭を引っ張り出すのが内容らしい。
 最初から逮捕するだけの仕事だと、逮捕する前に(ターゲットの方が)殺されてしまう危険性があることから、ヴァルカ一人には任されない。しかし、今回はその頭を聞き出さなければならないので、その時までは暴走しないと判断されたのか、張り込みに出ているのは彼女だけだった。

 そして、その最中、先の質問が全く唐突に彼女の口から飛び出したのである。

「四月バカのことか?」
 そう言えば今日は四月一日だな、とエマヌエルは考えるともなしに頭の隅で呟く。
 すると、なぁんだ、と気の抜けたような声が返って来た。
 狭い路地で向かい合うようにして立っているヴァルカに目を向けると、彼女の視線だけはターゲットのマンション入り口から離れていない。
「なぁんだって、何だよ」
「別に。知ってたのが意外だっただけ」
 横顔しか今は見えないその表情は、心底つまらなそうだ。
「あんた、知らなかったのか」
「そ。何せ、あたしは赤ん坊の時からもうこの身体だったでしょ。そういう風習みたいなことって、ベンのとこに来てから色々学んだのよね」
「それで?」
「……だから、絶対あんたも知らないと思ったの」
 投げ出すように言うと、ヴァルカは口を噤んでしまった。こういう不貞腐れ方をする彼女も珍しい。
「生憎だったな。オレは十歳まではごくフツーの人間だったんだよ」
 それが何だか可愛らしく見えた、などと本人に言えば銃弾が飛んで来かねない。危うくそれを口に出すことなく飲み込んだが、殺し切れなかった苦笑と共に、エマヌエルは肩を竦めた。
 去年の今頃、CUIO内でエイプリル・フールに託けたドッキリを彼女に仕掛けたバカが、半殺しの目に遭ったことは、ウィルヘルムから聞いて知っていた。赤子の身で既にモルモットだった彼女は、そういったイベントからは隔絶された子供時代を過ごしたのだろうから、知らなくて当然だ。多分、イタズラを真に受けた後種明かしをされてぶちキレた、といったところだろう。
 だが、エイプリル・フールを知っていたところで、そういうイタズラは往々にして腹が立つものが多いのも事実だ。人が不快になるようなイタズラを好んで仕掛ける輩にはよい薬である。
 エマヌエルの育った場所は教会で、育ての親は聖職者だから、そもそも嘘はいけませんよ、というのが常識だったが、村人までがイベントに疎いかと言えばそうでもない。孤児ではない、村人の子供に引っかけられて不愉快な思いをしたことも何度かあったことを思い出して、エマヌエルは再び苦笑を浮かべる。それも、今となっては取り戻せない平凡な日常だ。

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