Short&Middle

□見える位置のキスマーク
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「あたし、見える場所につけないでって言わなかった?」
「……聞きました」
 にっこり笑って銃口の照準を心臓に向けられては、敬語で答えるしかない。
「二人ともそこに直んなさい。どっちから逝く? 大丈夫よ、苦しまないように一発で心臓を撃ち抜いてあげるから」
 苦しませないようにするから大丈夫、とかそういう問題ではない。
 というか、何でおれまで! と叫ばんばかりの表情で、ウィルヘルムがこちらを睨んでいるのが目の端に映るが、エマヌエル自身もそれどころではなかった。
 満面に浮かんだ笑みと、そのくせ笑っていない目というセットが、これまでに出会ったどんな敵よりも恐ろしい。
「……悪いな、ウィル。この棟多分全壊する」
「明らかに個人的な痴情のモツレでおれに始末書書かせるのだけは勘弁してくれ」
「もつれてねぇよ、ちょっと機嫌損ねただけだ」
 どこがちょっとだ! と怒鳴る寸前のウィルヘルムの視線の先で、エマヌエルの細い指先に、パリ、と乾いた音を立てて青白い閃光が走る。
 彼らヒューマノティックにとっては、言う通り『ちょっとした』口喧嘩の延長にしか過ぎないのかも知れない。しかし、一般人からするとこれはマジだ。大マジだ。
 こんなことでこの東棟から全員緊急退避の命令を放送するのも気が引ける。引けるが、躊躇っている場合ではない。何せコトは、たった一人で核爆弾一発か、或いはそれ以上の破壊能力を持つヒューマノティック同士の『痴話喧嘩』である。
 迷惑だ。すごく迷惑だ。何でおればっかりこんな貧乏くじを引かされるんだ。
 ウィルヘルムの嘆きを余所に、エマヌエルが床を蹴る。ヴァルカのしなやかな指先が引き金を絞るのと同時に、その腕に飛びついて捻りながら、彼女を容赦なく放り投げた。相手は想い人である前に、ヒューマノティックだ。冷たいようだが、恋仲だからと言って遠慮していたら、死ぬのはこっちなのだ。
 戸口付近に立っていた彼女がいなくなったことで、必然的にウィルヘルムに退路ができる。エマヌエルが目配せすると、ウィルヘルムは心得ていて、素早くその部屋を飛び出した。

 緊急館内放送が流れて数時間後。
 エマヌエルの予見通り全壊した元CUIO本部東棟だった瓦礫の山を前に、ウィルヘルムは、ヴァルカの養父であるアスラーと共に暫し途方に暮れた。
 くだらないことが原因で全力でぶつかり合ったヒューマノティック二人が、洒落にならないほどの重傷を負ったのは、言うまでもない。

(fin)初出:2012.11.15. サイトup:2013.01.23.


アホか! と突っ込むしかないですね。

これも、あんまり更新出来なかった時分に森ブログのお題場で出会ったものを使わせて頂きました。

キスマークからこんな方向に展開するなんて思いませんでしたけど。
甘くない。全っ然甘くないよ!
ええー、キスマークって甘い恋人のお題じゃないの?
いえ、立派なバカップルのラブコメですが何k(強制終了)

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